屋上
無言だ。
サンドイッチを手に、あんぐりと口を開けたままの状態で止まっているヒロシゲと、チビチビと牛乳を啜る俺をよそに、清水清羅は箸を動かしていた。
膝の上には三段重ねの重箱。現在一段目だ。
「私も、一緒に食べていいかな?」
そう言いながら、人懐っこい笑みを浮かべた清水清羅に、俺とヒロシゲ如きが何か反論などできなかった。
寧ろ彼女が男相手にこんな表情をできるのかということに驚き、今に至る。
「お前、何があったんだよ」
やっと思考回路が動き出したヒロシゲが、俺に耳打ちをするが、そんなものは俺が知りたいくらいだ。
「あの清水清羅が男とメシ食ってんだぞ? しかも自分から言い出して」
得体の知れない恐怖に追われているような顔をし、ヒロシゲが俺の襟首を掴んで揺さぶる。
俺は素直に知らないと言っているはずなのだが、このチャラ男は理解できていないのか、まだ俺の体を揺さぶる。
「……ねぇ、安藤君」
そんな中、突然清水清羅が口を開く。
「……はい?」
俺の襟首を掴んだまま、ヒロシゲは首だけで彼女に振り返った。
「すごく邪魔、なんだけど」
ヒロシゲは聞こえた言葉が理解できない。とばかりに固まっていた。
そして、俺と彼女を何度か見直す。
「……聞こえなかった?」
笑顔で清水清羅は静かに言うが、どこか威圧感を纏っていて、それに耐えかねたか、ヒロシゲは俺の襟からゆっくりと手を離し、トボトボと退場した。
屋上のドアの向こうから、すすり泣く声が聞こえた気がしないでもない。
残ったのは、淡々と重箱の中身を減らしていく清水清羅と、飲み終わったパック牛乳のストローを咥えたまま、呆然としている俺だけだ。
「……ねぇ、薦田くん」
無言の時間が数分流れた後、重箱の一段目を地面に置きながら、清水清羅は口を開いた。
「午後の授業、サボっちゃおっか?」
悪戯な笑顔を浮かべられながら、そんな事を言われて、断れる男などいない。今なら断言できる。