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彼女と僕  作者: ぷりてぃ
2章
22/37

もう一つの告白

「やっとあたしの事、見てくれた」


 俺から顔を離すと、夏輝はそう言って悪戯っぽく笑う。


 その頬は少し赤らんでいて、その扇情的な光景に、俺の心臓がバクバクと鳴っている。


 もちろん、目線は夏輝から離すことが出来ない。


「昔から、何度かやったことあるでしょ? コレ」


 そう言って、夏輝は俺のおでこをちょんとつつく。


 そういえば、昔からボケっとしがちで、考え込むと人の話を聞かなくなる俺に、たまに夏輝がコレをやってきた思い出がある。


 俺の顔を両手で押さえて、目を閉じて、おでこをくっつけてくるのだ。無論、口と口が触れ合うことは無い。


 とはいえ、そんなこと突然されたら、俺もびっくりするわけで、相手に集中せざるを得なくなる。


 ……ただし、それは小さな頃だから笑い事で済んだ話で。


 今この年齢でやったら、いけない。いろんな意味で。


 俺の太ももは夏輝の両膝に挟まれるように身動きがとれないようになっていて、視線を少しずらせば、だらりと開いた制服の胸元から、普段は見えてはいけない布地と肌色が少々。


 焦って顔を上げても、ピンク色の小ぶりな唇と、真っ直ぐに俺を見つめる大きな瞳。


 ……先程まで考えていたことは、見事に霧消した。


「本当に武は考え事すると、すぐ分かるんだから」


 苦笑いをして、そう言うのはいいが、いいからどいてくれ。


「清水さんのことでしょ?」


 ……どかそうと手をかけようとした時、確信を突かれて、俺の手が止まる。


「やっぱり。武は分かり易すぎ」


 次はちょっと困ったように笑う。


 笑うっていう一つの表情でも、ここまでコロコロ変わると、こちらも見ていて飽きない。


「こないだの張り紙の件?」


 またしても確信を突かれる。もうこいつに隠し事は通用しないだろう。そう思って首を縦に動かした。


「確かに、清水さんが悪いよ、アレは。ね。フェアじゃないよ、うん」


 そう言うと、夏輝は俺の上からどいてくれたので、俺も座り直す。


 ……ついでに、カッターシャツのボタンをもう一つ上まではめる。いや、なんとなく。


「でも、気持ちはわかんないでも無いから、これ以上は責めるのは止めてあげようよ、ね?」


 思っているところはそれだけじゃないが、取り合えず頷く。


「うわっ……。絶対納得してないね、その顔」


 思いっきりジト目でこちらを見つめてくる。なんだお前。心を読むな。


「ふふん。武の考えてることくらいわかるよ。それ以外にもたくさんあるみたいだね。清水さんの事」


 何で分かる。と言いたいが、言うと調子に乗りそうなのでやめておく。


「……武は、どう思う?」


 どう、とは? と聞こうとすると、夏輝が続ける。


「清水さん。ちょっと普段とは色々ギャップがあったり、謎の多い人だけどさ、信用できない人……。だと思うかな?」


 言われてみて、考える。


 告白の時。あの震える手と、切羽詰まった表情。あんな演技ができる高校生がいたら、将来女優をやった方が絶対にいいというくらい、切羽詰っていた。


 バッティングセンターで一度ボールにあたった程度で飛び跳ねて喜ぶ姿、神社で見せた優しい笑顔。うずくまって泣いていたあの泣き顔、抱きしめた時の暖かさ。あの瞬間の、ホッとするような安堵感。


 ……なんていうか。簡単だな。俺の頭。


 ヒロシゲの言う事は筋が通ってる。


 少ない情報から、言葉の端々を、表面を取ってみれば、確かに清水清羅はどこか怪しい。何かを隠していてもおかしくない……。とも思える。


 でも、俺にはヒロシゲでは絶対に知りえない情報……。というには足りないかもしれないけど、彼女と直接触れ合って感じた、感覚というか、直感というか。それがある。


 そしたら、どうやったって、清水清羅が何かいけない事を画策しているなんて考えられない。


「ほら、ね? 難しく考えすぎなんだよ、武は」


 ……だから、何で分かる。


「ま、今回の助言はこんだけ! あたしは武と過ごした時間は一日の長があるし、あたしが昨日ちょっとカチンと来て言っちゃったせいで、こんな疑われた清水さんと戦うのはアンフェアだしね! だから、今回だけは特別。もう二度と無いよ」


 相変わらずフェアプレーが好きなことで。でも、戦うって何を? そう言おうと思った。


「あたしだって、武の事が好きなんだから!」


 ……唐突過ぎて、一瞬意味が分からなかった。 

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