後ろの正面
『もしかして、もう学校にいる?』
メールを開いて、一瞬時が止まった。
そして、即座に後ろを振り返り、辺りを見回した。
清水清羅は、俺の行動を把握している?
冷や汗が頬を伝い、携帯を持つ手が震える。
もしかして、最初のあの告白。ガチなのか? あそこで断ろうがものなら、俺は本当に刺されていたのか?
色々な思いが頭を過ぎり、一人でいられなくなり、屋上の扉を力の限り押し、階段を駆け下りる。
「……やっと理解しやがったか」
階段の踊り場に差し掛かると、ヒロシゲが壁にもたれかかって待っていた。
俺の鬼気迫る表情を見て、ヒロシゲが小さくため息を吐いた。
「清水清羅の過去について、だが。知ってるか?」
ヒロシゲの質問に俺は首を横に振る。
清水清羅とは高校に入って、しかも二年になって初めて面識をもった程度だ。もちろん、一年の半ば頃には、学年トップクラスの成績に、あの容姿、そしてあの人物だ。噂が届いたことは何度かある。
「そうなんだよ。実は、俺もあの女の過去を知ってる人間に会った事がねぇ」
そういえば、清水清羅と同じ中学だというヤツを見たことが無い。それどころか、彼女の出身がどこかということも話題に上ったことが無い。
「何もかも不自然なんだよ、あの女……」
そう言ったヒロシゲが親指の爪を噛んだ。
たまに見る癖で、主に不利な時や考えに詰まった時に出る癖だ。
ヒロシゲとしても、色々調べてはみたそうなのだが、清水清羅に至っては、全く情報が出てこない。
主だった友人もいないので、彼女のプライベートを知る人間もいない。教師から入学時等の情報を引き出そうにも、あまり優良な生徒とは言えないヒロシゲには難しい。
そのため、電話番号を知っていて、一緒にプライベートを過ごした事がある俺が、この学校内で一番清水清羅を知る人物というわけだ。
「そんなわけわからんやつが、一年以上も優等生してて、突然お前にナイフを突き立てて告白した。んでもって、それをクラス内で噂になるようにした。事実だけを言うとそうなんだよ。ワケが分かんねぇだろ。あいつに何のメリットがあんのか。そもそも、何でお前なのか。理由が分かんねぇうちは、不用意なことはしないことだ」
真剣に言うヒロシゲに押され、深く頷く。
「いいか、取り合えずは今まで通り、だ。その中で、二人だけになるような事は極力避けろ。無理な理由で無く、やんわりと。な」
ヒロシゲは清水清羅への対策を講じようとしたその時だった。
「あ、菰田くん」
声の方向に振り向くと、清水清羅の顔がそこにあった――。