疑心
「……やっぱりねぇ」
ヒロシゲは、朝っぱらから屋上で少年誌を枕に寝転びながら呟いた。
結局昨日はありすのお陰かまったりとしたムードになり、あとはくだらない話や、部屋を家捜しされて終わった。
途中、何度か女子共が口論になりかけたが、そのたびに天使を召喚することで事なきを得た。ちなみに、その対価はチョコ二粒と、非常に良いコストパフォーマンスを誇る。
そして、二人が帰った後、ヒロシゲから連絡があり、今朝、俺史上最速の時間に学校へとやって来る破目になり、なぜかこの二日間の話をヒロシゲに事細かに聞かれている。
「ちょっとこれ見てみろ」
そう言って、ヒロシゲは昨日の朝、黒板に貼ってあったあの紙をこちらに投げた。
広げてみても、別段何ということもないA4のコピー紙に、でかでかと『2-A薦田武。清水清羅と熱愛発覚!』とワードか何かで打ったであろう文字で書いてあるだけだ。
「それよ、何かおかしくねぇか?」
ヒロシゲはそう言うが、俺には一切おかしな部分が見出せない。
「普通よ、いくらクラス長とお前に何かあったからって、紙を貼りだす必要があるか? マンガじゃあるまいし」
確かにそうだが、清水清羅が恋愛となると、このくらいの号外はあって然りと思ってしまう。
「それと、貼る場所が、わざわざ当人達のいる教室のみってどうよ。紙を貼りだすってことは、知らない人間に告知するのが目的の可能性が高いはずだ。それなら廊下や昇降口、それ以外にももっと人目につく場所はあるはずだし、複数枚あってもいいはずだ。これじゃ何のためにコピーしてんのかわかんねぇ」
そう言うと、ヒロシゲは週刊誌をどかして起き上がった。
「まぁ、百歩譲って、当人達を辱める、プレッシャーを与えるのが目的なら、貼る場所は間違ってねぇ。でもよ、それなら何で一枚だけ、わざわざコピーしたか。ずっと引っかかってたんだよ」
確かに言う事に合点はいく。ドラマで昔見た、噂の二人が黒板にチョークで相合傘や色んなものをでかでかと書かれていて、本人が慌てて消すシーンが思い浮かんだ。
「だから、逆に貼った人間の立場になって考えてみると、だ。黒板に書くわけにはいかねぇ理由がある。つまりは、書いている途中に見つかる、または、書いた絵、字で人がバレるのを避ける必要がある。まずこれが一つ」
そう言って、ヒロシゲは人差し指を立て、指で一をつくる。
「そして、事実がある程度知れ渡ったら、簡単に処分出来る。また、広い範囲に即座に知れ渡る必要は無い。これが二つだ」
そうして、指で二を作る。
「でもな、これは俺の推論で、この目で見てねぇから実際んとこは知らん。だから、そう大きいことは言えねぇ。だがな――」
ヒロシゲの顔が、さらに真剣なものとなる。
「クラス長――いや。清水清羅とは、距離を考えたほうがいいぞ。これは友人としての忠告だ」
それだけ言うと、ヒロシゲは屋上を後にした。
……ここまでヒントを貰えば俺でもわかる。黒板に紙を貼った犯人も、夏輝の言う「早くから学校でしていた何か」も。
全てが清水清羅の自演? それに一体何の意味がある? 本当に俺に気があるのか?
しかし、あの時神社で抱きしめた清水清羅は、とても演技していたとは思えない。
あたまの中で混沌が渦を巻いている間に、携帯が鳴る。
清水清羅からのメールを、息を呑みながら開いた――。