菰田家の三人
母は不敵な笑みを浮かべ、ありすは天使のような笑顔で、俺の帰還を喜んだ。
「へぇ~。ここが菰田くんの部屋なんだ」
ニコニコと笑いながら見回す清水清羅は、非常に嬉しそうだ。
「ふぅ~ん。少しは高校生らしい部屋になってんじゃん」
ニヤニヤしながら見渡す夏輝は、非常に楽しそうだ。
その間に挟まれ、俺は薄ら笑いを浮かべるしか出来ない。
「菰田くん、ありがとう」
突然、振り返った清水清羅が振り返ってそう言う。
何が? と言いかけた俺の横に座り、清水清羅は笑う。
「昨日、私を選んでくれて」
満面の笑みだが、距離があまりにも近い。その上、二人とも腰掛けているのはベッドの端。さらに、清水清羅の指先は、さりげなく俺の指先と少しだけ触れている。
なんだかんだここ数日常に一緒にいるものの、やはり美人であることに変わりは無く、クラスの野郎共では知り得ない表情で、この距離。
無意識に鼓動は早まり、頬が暖かくなる。
しかも清水清羅は何故か目を閉じ、頬を紅潮させている。
さすがに女性と縁の無かった俺でも分かる。ここは――。
「どーん!」
と、大きな声と衝撃と共に、俺の視界は天井を捉えた。
「いやぁ、懐かしいねぇ、このベッド。昔は二人で寝てもあんなに広かったのになぁ……」
夏輝のタックルをくらったようで、夏輝と俺はベッドから足だけはみださせて寝転んでいる格好となった。
「昔はよく武を抱き枕にさせてもらったもんね」
そう言いながら、俺をギュっと抱きしめてくる。苦しい。しかもあの頃とはいろんな意味で体の作りが違うんだ。やめろ、色んな意味で手遅れになる前にやめてくれ。マジで。
ネコのように擦り寄る夏輝も十分に危険だが、俺がチラリと視線を移すと、氷点下の顔をした女性がこちらを見ているのです。命の危険を感じます。
辞書で「丑の刻参り」という言葉をひくと、挿絵がこの顔でも何らおかしくは無い顔をしている。
その表情を見て、瞬時に飛び起きたのは言うまでも無い。
「何さ。文句があるならあなたも武と寝転べばいいじゃん」
その気配を察したか、夏樹が唇を尖らす。
「……ねぇ市塙さん。何回も言ってるけど、菰田くんは私の彼氏なの」
「だから何? あたしは武と昔みたいに仲良くしちゃいけないっての?」
冷たく言い放つ清水清羅に、夏輝も飛び起きて反論する。
「そうは言ってないわ」
「言ってるよ!」
夏輝の声に少し棘が混じる。
「武は自分の物だから、あんたは触るな~! って聞こえてくるよ」
「そんなこと……」
「だから、言ってるの! 少なくともあたしはそう聞こえる!」
珍しく夏輝の言葉に怒気が孕んでいた。
「じゃなきゃ、あんなことしないでしょ?」
何よあんなことって……。と言いたげな目で清水清羅が夏輝を見る。
多分言ってもまた遮られると思って、口を閉ざしているのだろう。
「昨日――。あたしが転校してきた日の朝。あんな早くから学校で何してたの?」
その言葉で、清水清羅の顔に初めて、焦りの色を見た。