三叉路その2
小さい頃からよく言われた。
どうにも俺は優柔不断らしい。
RPGの選択肢に一時間かかり、仲間にしたモンスターの名前をつける画面になる度に、ベッドに横になって天井を仰ぐ必要があった。
だって、選択肢の中には、誰かを悲しませるものもあるわけで、自分が主人公の物語では、世界が変わってしまうかもしれない。
そんな事を考えると、いくらゲームの中だからといって、おいそれと答えるわけにもいかないし、仲間の名前だって、真剣に決めないといけない。だって、俺が「ああああ」なんて名前つけられたら、両親がラスボスの人生が始まったってなんらおかしくない。
ただ、現実では選択肢を迫られたとき、RPGのように何時間も同じ画面で待ってくれなくて。
しかも、選択肢だって一つや二つってレベルじゃなくて。
性質の悪いことに、セーブポイントも無けりゃ、リセットだってきかない。
本当に高難易度に設定されてやがる。
しかも、選択肢を選んだからって、そこからまた勝手に物語が進んでくれたりもしない。
「……何しに、来たのよ」
雑木林の中にある、無人の神社。
賽銭箱の前でうずくまっている清水清羅に、思いっきり睨まれた。
その目は明らかに赤くなっていて、少し泣いたのかと思うと、胸がチクリと刺される。
「別に私のことなんて、好きじゃないんでしょ?」
拗ねた感じでそっぽを向きながらそう言う姿は、いつもの冷静沈着なクラス長の姿からは程遠くて、少しでも乱暴に扱えば壊れそうな、でもすごく綺麗なガラス細工のように思えた。
少々の無言が二人の間を駆け抜たが、清水清羅も膝を抱えながらではあるが、俺が言葉を出すまで待っているのか、上目遣いでチラチラとこちらを見てくる。
その視線の先の俺は、勢いで追いかけたものの、特に用意していた言葉も無い。
だから、一歩一歩、うずくまる彼女に近づいた。
そして、賽銭箱の前に座る彼女の両脇に手を入れて持ち上げる。
「キャッ」と小さく悲鳴をあげるも「何のつもり?」とでもいいたげにこちらを睨んだ。
それを無視するように、ゆっくりと地面に立たせると、そのまま脇に当てていた手を彼女の背中まで滑らせ、抱き寄せる。
好きかどうか、正直そんなものはまだわからない。
でも、目の前にいる彼女を泣かせたままにしておくと、何故か胸がジンジンする。
そして、こうやって抱き寄せるだけで、暖かさにどこかホッとする。
今は、この感覚に従うっていうのが一番の選択肢なんじゃないかなと思う。
「……私の事、嫌いじゃない?」
そう言いながら、彼女もおずおずと俺の背中に手を回してきた。
だから俺は何も言わずに、頷く。
「そっか。じゃあちょっとだけ許す」
そう言うと、フフっと笑って、少し強く抱きしめてきた。
薦田武17歳。初めての告白から三日目で、ようやく彼女が出来たと実感した。