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彼女と僕  作者: ぷりてぃ
1章
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鈴木、号泣

屈強なラガーマン、鈴木は泣いていた。


「なんでラグビーに青春をかけた俺ではなく、こんな何のとりえも無い平凡な男なのだ」と、叫びながら。


男八人がかりでようやく収まった鈴木の暴走すら、まるで眼中にない女性が二名。


「そう。私の彼氏」


呟くようにだが『私の』という部分に力を込めて、清水清羅が言う。


「そうだよね。昨日仲良さそうにしてたもんね」


それを気にも留めずに、夏輝は笑顔で返す。


「でさ、武。早くメール送ってよ。早く」


清水清羅のことなど無かったかのように、ナチュラルに俺に話を振ってくるが、後ろで能面のような表情をしている彼女が怖くてならない。


夏輝は機械が大の苦手なので、多分赤外線とか知らないんだろうな。と思いつつメールを作成する。


「学校での携帯電話の使用は禁止よ」


無表情を顔に貼り付けたまま、清水清羅が俺の携帯を取り上げる。


……今まで携帯で遊んでても、そんなこと一度もしなかったくせに。


「え~。彼女さん、カタいなぁ。ちょっとくらいいいじゃん」


唇を尖らせて反論する夏輝に、清水清羅は何も答えずに席に戻る。


「まぁいいや。お昼は一緒に食べようね」


その一言を聞き、座った瞬間に椅子からまた清水清羅が立ち上がる。


「あと、帰りも一緒に帰ろうよ。知ってる人、いないし」


その言葉に、早足というには早すぎる歩きで、清水清羅が近づいてくる。


「あ、そうだ。久しぶりに武のうちに行きたいな!」


ちなみに、昔からこうやって予定を決めだしたら、俺に決定権は無い。


つまり、夏輝の思い通りにしか動くことが許されないのだ。だから俺は口を真一文字に結んで、その場に突っ立っているだけだ。


「よーし、決定!」


嬉しそうに言う夏輝の肩に、後ろから手が伸びた。


「私も、今日彼と同じ約束してるんだけど……」


「え? そうなの?」


元からまん丸な目をさらに丸くして、夏輝が俺に聞く。


俺も同じようなリアクションをしたかったが、後ろの女が怖すぎて、否定も肯定もせず、薄ら笑いを浮かべるだけだった。


だって、夏輝の誘いを断っても、強引に連れて行かれるので、不可能。


清水清羅の誘いを断ろうとすると、首筋にナイフの感触が蘇る。


ただ、それよりも何よりも、一番恐ろしいのは、このやり取りが行われているのは、教室の隅ということだ。


いつの間にか静まり返った教室では、全員がポカンとした顔でこちらを見ていた。


ただし、鈴木の嗚咽だけは、廊下まで響いていた。

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