どうしてこうなった
「ええ。事実よ」
件のクラス長は、俺が隠れている間に、教室での質問攻めにそうとだけサラと答え、あとは無視を決め込んでいた。
そのお陰で、追われることこそ無くなったが、男子からの視線は、まるでレーザーサイトのような恐怖と圧迫感があった。
唯一そういった視線を向けてこないヒロシゲは、黙りこくったまま何かを考えているし、最近古文で習った四面楚歌という言葉の意味がよく分かった。
そんな空気を払拭するように、担任が教室に入ってきてくれて、救われたようになった気がした。
……気がしただけだ。
なぜなら、黒板に書かれた文字と、そこにいる人物を見て、俺が正気でいれるわけが無い。
「――はじめまして」
ステキな笑顔で、クラス全員に向けて挨拶する季節はずれの転校生は――。
「市塙夏輝です。よろしくお願いします」
そう言って、俺の方に向かって、にこやかに笑いかけてから、席につきやがった。
しかもその席は――。
「めっちゃ可愛いじゃん。あの娘」
さっきまで何かを考えていた姿とは似つかわしくないほど、顔を綻ばせたヒロシゲの後ろだった。
「武。あたし、教科書とか持ってないし、見せて」
無論、頼る相手のいない夏輝は、休み時間になれば真っ先に俺の所に来るわけで。
男子生徒たちの、憤怒と絶望と哀願に満ちた視線が俺に突き刺さり、女子生徒たちの黄色い声と、あまりにも過激な噂話が、耳をチクチクと刺激する。
というか、なんでコイツここに無断で転校してきやがったか小一時間は問い詰めたい。
「昨日番号渡したから、メールか電話で言おうと思ったのに、武連絡くれないから」
おい、やめろ。そんな意味深な発言をするな。お前には見えないのか、泣きながら暴れるラグビー部の鈴木を五人がかりで止めているのが。
「……市塙さん」
夏場でも長袖を着込みたくなるような冷たい声と表情で、清水清羅が近づいてきた。
「あぁ! 昨日の武の彼女さん! 同じクラスだったんだ!」
その一言を契機に、鈴木の頚木が千切れた――。