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彼女と僕  作者: ぷりてぃ
1章
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告白

「好きです! 付き合ってください」


 それは、精一杯の告白。


 震える両手をこちらに突き出し、真っ赤に染めた顔を俯かせている。


 学校内でも一、二を争う美女、清水清羅(しみず せいら)が目の前で、よりにもよってこの俺に、そんな事を言うなんて、思いもよらなかった。


 この震えから考えて、ドッキリの線はまず無いだろう。


 それに、周りに人がいるような雰囲気もない。


 しかし、些かの違和感がその場に漂っていた。


 もちろん、俺の答えは決まっている。イエス以外に何があろう。


 こんな昼行灯に訪れた、人生でたった一度かもしれないチャンス。逃すまい。


 この告白を受け入れれば、学校内の男全員を敵に回すだろうし、もし受けなかったら、学校全体から軽蔑されるだろう。


 どちらにせよ、彼女にここまでさせてしまった俺は、普通の生活というものを手放さなければならない。


 もちろん、身の危険すらあるだろう。


 だが、待って欲しい。


 先程からひしひしと伝わる違和感。


 そして、キリキリと締め付けられる俺の胃。


 俺の思考がもし正常ならば、舞い上がっておかしなことになっていなければ、の話だ。


 どう見ても、彼女の震える両手から差し出されているのは、ラブレターでもなく、握って欲しそうに開いた掌でもなく……。




 ――果物ナイフ。




 な、気がするんだが。どうだろう?


「つ、付き合ってくれないと、ここで、こここ殺しちゃうかもしれないよ!」

 

 俯きながら手を突き出すから、俺の喉元ギリギリまでナイフが伸びて来ている。


 春先というのに、冷たい汗が頬を流れる。


 OKだからその獲物をしまってくれ。そう言いたくても、上手く言葉が喉から出ない。


「どうなのっ?!」

 

 そう言いながら顔を上げた彼女は、目に涙を溜めながら、頬を赤らめていた。


 しかし、鬼気迫る表情が、そのオプションを台無しにしていた。


 そんな風に迫られ、俺は無抵抗を示すように両手を挙げ、ブンブンと首を縦に振る。


「こ、怖いから無理やり頷いてない?」


 なんで弱気なんだよ、ナイフまで突きつけておいて。


 突然首を傾げながらそんな風に聞くくらいなら、最初から正攻法で告白してこいよ。


 と、言いたくても、まだ喉元に光る銀色の楔が俺の自由を制限しているため、首を横に全力で振りながら、思うだけだ。


「本当?」


 その問いに一度だけ頷く。


「本当に本当?」


 グイっと近づいてきて、顔が近いのはいいが、ナイフが喉に触れてます。死にそうです。


 壊れたように頭を縦に振るしかない。


「……良かった」


 その言葉と共に、彼女の腕が力を失って、だらんと伸びた。


「じゃあ、これからよろしくね。薦田くん!」


 薦田武(こもだ たけし)17歳。初めてされた告白は、脅迫と紙一重だった。

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