告白
「好きです! 付き合ってください」
それは、精一杯の告白。
震える両手をこちらに突き出し、真っ赤に染めた顔を俯かせている。
学校内でも一、二を争う美女、清水清羅が目の前で、よりにもよってこの俺に、そんな事を言うなんて、思いもよらなかった。
この震えから考えて、ドッキリの線はまず無いだろう。
それに、周りに人がいるような雰囲気もない。
しかし、些かの違和感がその場に漂っていた。
もちろん、俺の答えは決まっている。イエス以外に何があろう。
こんな昼行灯に訪れた、人生でたった一度かもしれないチャンス。逃すまい。
この告白を受け入れれば、学校内の男全員を敵に回すだろうし、もし受けなかったら、学校全体から軽蔑されるだろう。
どちらにせよ、彼女にここまでさせてしまった俺は、普通の生活というものを手放さなければならない。
もちろん、身の危険すらあるだろう。
だが、待って欲しい。
先程からひしひしと伝わる違和感。
そして、キリキリと締め付けられる俺の胃。
俺の思考がもし正常ならば、舞い上がっておかしなことになっていなければ、の話だ。
どう見ても、彼女の震える両手から差し出されているのは、ラブレターでもなく、握って欲しそうに開いた掌でもなく……。
――果物ナイフ。
な、気がするんだが。どうだろう?
「つ、付き合ってくれないと、ここで、こここ殺しちゃうかもしれないよ!」
俯きながら手を突き出すから、俺の喉元ギリギリまでナイフが伸びて来ている。
春先というのに、冷たい汗が頬を流れる。
OKだからその獲物をしまってくれ。そう言いたくても、上手く言葉が喉から出ない。
「どうなのっ?!」
そう言いながら顔を上げた彼女は、目に涙を溜めながら、頬を赤らめていた。
しかし、鬼気迫る表情が、そのオプションを台無しにしていた。
そんな風に迫られ、俺は無抵抗を示すように両手を挙げ、ブンブンと首を縦に振る。
「こ、怖いから無理やり頷いてない?」
なんで弱気なんだよ、ナイフまで突きつけておいて。
突然首を傾げながらそんな風に聞くくらいなら、最初から正攻法で告白してこいよ。
と、言いたくても、まだ喉元に光る銀色の楔が俺の自由を制限しているため、首を横に全力で振りながら、思うだけだ。
「本当?」
その問いに一度だけ頷く。
「本当に本当?」
グイっと近づいてきて、顔が近いのはいいが、ナイフが喉に触れてます。死にそうです。
壊れたように頭を縦に振るしかない。
「……良かった」
その言葉と共に、彼女の腕が力を失って、だらんと伸びた。
「じゃあ、これからよろしくね。薦田くん!」
薦田武17歳。初めてされた告白は、脅迫と紙一重だった。