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二章 五節

 ああ、かつきさん驚いた表情をしている。

 「あたしの妹。夏菜、あいさつは?」

 「こんにちは トゥッ ドゥドゥ。」

 「こ…こんにちは。」

 「夏菜は如月さんよりも重い自閉症なの。たまに大声で独り言を言うかもしれないけど、

  気にしなくていいから。」

 「へっ…へぇ~」

 「実家からあたしに会いに来てくれたみたいだけど、お金がなくて大暴れしたらしくて。」

 「実家はどこ?」

 「××市」

 「隣の県じゃん!?よく来れたね。」

 「実家の最寄り駅から一本だから。」

 「あっ、あの俺の車に乗る?

  わざわざ電車で帰るのも大変だし。」

 「平気、両親が電車で夏菜を迎えに来るって。時間になるまで少し散歩してたの。」

 「へっ…へぇ~。じゃあ、洋服屋とかは?」

 「人ごみ、だめなの。」

 「じゃあ、公園は?」

 「公園で遊ぶことできない。」

 「カフェとかは?」

 「カフェはカフェインが含まれており、気管支の拡張効果等様々な効能があります!」

いきなり夏菜がこんなことを大声で言うから、かつきさんも驚いた表情をしています。

さらに、周りの人々も。あの女子高生はクスクス笑っている。

     

 「ごめんね。もう大丈夫だから。もう親も迎えに来る時間だし。

  あたしね、半ば家出みたいにここに来たから会うの久々なんだ。

  母とは電話で何回かあるけど。なんかごめんね。そしてありがとね。じゃあ。」

あたしはその場を逃げるように夏菜の手を引いて駅へ向かった。

駅にはすでに両親ともいて、母は涙ながら夏菜に抱きついた。

 「仕事の方は大丈夫なのか?」

父にそう聞かれ、うんとうなづく。

 「ありがとね、かずは。」

 「大丈夫だよ。」

 「たまには帰っておいで。」

母にそう言われた時は泣きそうになったが、なんとかこらえた。

 「うん。盆休みには帰るよ。夏菜、元気でね。」

 「はいっ。」

あたしは駅で三人を見送り、アパートへ向かった。

 ふと前方を見るとかつきさんが車の横によっかかるように立っていた。

 「かつきさん?」

 「親孝行はできたかな?」

かつきさんはあたしに気付き、そう言ってあたしの方へ歩いてきた。

 「うん。」

 「家の前まで送るよ。」

あたしはおそるおそる助席に乗った。

かつきさんは淡々とハンドルを回した。

乗っている間はお互い何も話さず、あたしはただ外の景色を見ていた。


 アパートの前まで送ってもらい、あたしはお礼を言い降りようとしたが、かつきさんがあたしの腕を強く引いた。

 「佐々木に何言われたか知らないけど、俺もっとかずはさんのこと知りたい。

  だから、メールや電話無視しないでほしい。俺、この三週間つらかった。

  お前のはげましのメールや電話越しの声がいつしか俺の癒しになってくれてて。

  その…もうあんたなしで生活できないんだ!かずはさんのこと好きなんだ。」

ドラマの主人公のラストシーンのような出来事にあたしは驚いております。

だって、えっ?あたしを?嘘みたい。

気付いたら涙を流していた。

 「えっ?どうして?」

かつきさんは細い目を丸くしてあたしの顔を見た。

 「そんな見ないで。」

 「やだ、見たい。言ったろ?かずはさんのこともっと知りたいって。」

そう言うとかつきさんはあたしのあごを持った。

ああ、その目のどんどんすいこまれる。

そしてかつきさんは親指であたしの涙を拭きとり、右手の親指と他四本の指であたしの頬をつかんだ。

変な顔 そうつぶやきながらあたしにキスをした。




 出会って1カ月ちょいで付き合うことになりました。

このまま彼と…なんて高望をしたがる時もありますが、それはまだ早い。

あたしには夏菜がいる。

どうかこの恋愛は遊びで終わらせて。

あたしはいつしか恋をしている自分に恋するようになった。それは自分でそう言い聞かせてるだけ?

それとも今までに本気で人を好きになったことがないだけ?

 「よかったねー」

 「うん、なんだかんだいって成立すると思ってたよ私は。」

事務仕事をしているあたしの横で同期2人がつぶやく。

 「キスはしたの?」

しばらく間を置き うんと答えた。

 「キャー!!じゃあ、これあげる!」

為永があるものをあたしにくれた。

見てみるとゴムであった。

 「あたしにはまだ必要ないから、でも鳴海にはあるでしょ?」

 「ちょちょちょちょっ…」

 「なにそんなに驚いてるのよ?」

 「もしかしてまだ…?」

その質問にあたしはうつむきながらうなずく。

 「いやいや、あんたいくつよ?誕生日きたから23でしょ?」

 「途中まではあるけど最期までは…」

 「「ないの?」」

2人同時にそう聞かれ、はずかしながらも答えるあたし。

2人は少し驚いていたが、楽しんでこいと逆にうれしそうに言われた。

あたしはゴムをサイフの中にしまっといた。




 ある日のこと、かつきさんと2人で洋服を買いに行った。

あたしはそこの洋服屋のポイントカードを出したので、ポイントがたまり、また新たなポイントカードを作った。

その時名前と年齢を書かされるので、名前と年齢を書いた。

 「えっ?23?新卒だから22じゃないの?」

かつきさんにそう聞かれ、

 「あっ誕生日来たから。」

と答える。

 「えっっ?!いつ?」

 「3週間ぐらい連絡とらなかった時あったでしょ?あの日。」

 「えええっ?なんだ、今買いに行こう!」

 「はっ?ほしいものもうないもん!」

 「だめっ!今決めて!!」

そんなこと言われても。

 その時かつきは電気屋で佐々木とかずはがテレビコーナーの所で会ったことを思い出した。

 「テレビ買おう!」

 「はっ?」

かつきさんに強引に電気屋さんに連れて行かれた。

かつきさんはあたしに気を使ってくれたのか、佐々木先輩と会ったあの電気屋さんとは違う電気屋さんい連れてってくれた。


 「何がいい?今なんのテレビ?」

 「あたし、テレビ持ってない。」

 「はっ?じゃあ家で何してんの?」

 「見たいドラマはDVDが出るまで待ってて、パソコンでそういうDVD見てる。」

 「へっ…へぇ~」

かつきさんは真剣にテレビを選んでくれるのだが、あたしはなんでもいいと思っていた。

テレビなんてどれも同じでしょ?

 「かずはさん!このテレビは?」

 「そんなにこだわりないから、なんでもいい。」

 「ん~」

テレビを選んでいる横顔もなんともいえないとてもかわいらしい。

 だが、もうテレビを選び始めてから30分はたつ。かつきさんは家電芸人だと認定した。




 「テレビはここの位置でいい?」

かつきさんにテレビをセットしてもらった。

 「ありがとう。」

テレビのセットを終えたかつきさんに麦茶をあげた。

かつきさんはその麦茶をゴクゴクのどを鳴らせて飲みほした。

 「誕生日、早いんだね。」

 「ええ、かつきさんは?」

 「俺は9月。」

 「じゃあまだまだですね。」

しばらく沈黙が流れた。一室、2人きり。無駄な緊張がする。

体がどんどん硬くなり、手汗がひどくなる。

もうすぐ夏がくるからか?それともかつきさんが隣にいるからか?

 突然ゴロゴロと雷の音が響いた。

 「うわあ、最悪。雨だよ。」

あたしは窓を見ながらそう言った。

 「やべっ!洗濯物!!」

かつきさんは急いで帰る支度をした。

 「今日はテレビありがとね。」

 「どういたしまして。少しおそめのプレゼント。じゃっ」

そういうとかつきさんは走って車のほうへ行き、アクセル全開にして行った。

窓を再び見ると、雨がはげしかった。

あたしは少しさびしい気分の陥った。

この雨のせいなのだろうか。

この雨のようにはげしく泣いてみたい。

今日はテレビを買ってもらうなど、とてもうれしい出来事が起こったのになぜこんなにも泣きたくなるのか。

 ピンポ~ンとチャイムの音に気付き、ドアを開ける。

ドアの前にはかつきさんが、びしょぬれの状態で立っていた。

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