二章 一節
あの青年と出会ってから、見慣れたはずの風景がきれいにみえる。少し前まで山しかないとぼやいたあたしだが、そんな山が美しく思える。山が朝日を照らし、朝日が山を美しくさせる。そんな当たり前の風景がとてもきれい。
あたしは仕事をして家に帰って、よるごはんを作って食べて、タバコを口に加える。タバコなんて何年ぶりだろう。最近、仕事をするようになってから再び口に加えるようになった。そして青年を思い出す。1日に数えるほどのメールが待ち遠しい。今日はなんてメールを打とうとか、なんて返信がくるのか楽しみで仕方がない。そしてまた新たな日課が増えました。
「如月さん、時間ですよー」
「はあい」
あたしの声に気付き、如月さんはあたしの所へかけてくる。その傍らにはあの青年が立っている。
「今日も神経な眼差しで見られちゃいました。」
青年は頭を掻きながらそう言った。
「よかったです。如月さんの趣味がひとつ
増えて。」
あたしの仕事を終えてから、如月さんの お迎えに行くことです。
如月さんたちはあたしより作業を早く終えるので、20分以上ここで青年が車を整備しているところを見ることができるのです。
少しずつ青年との距離が近づいています。
「滝沢くんとどうなのよ~」
安住先輩と同期に聞かれ、別にと答える。
「別にじゃないでしょ!?」
「そうよ。共に一夜を過ごした仲でしょ!?」
「なんともないです。」
「えっ!?まじ!?」
「むなしさが残りました。」
「でも、メールしてんでしょ!?」
青年はあたしのことをどう思っているのでしょう。
せっかくあたしのことを知ってるひとがいないこの土地で、新たな人生を歩んでいるのに。