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一章 四節

 「鳴海~」

大きな声でそう呼んだのは安住先輩だった。

そして同期とも少し雑談をした。


 「いいじゃん。その服。」

 「合コンなんて久々だから大変だったけど。」

 「どういう男が来るのかな」

 「さぁ、大卒で給料が私より上のやつ。」

 「ははは。」

 「来たわよ。」


安住先輩にそう言われ、少しドキドキしながら見てみる。


 「おーい、あずみっちー。」

 「けんたー!」

その傍らには男3人の姿が見える。


 「誰タイプ?」

あたしが同期の2人に聞いてみる。

 「私右っ。」

 「よかった~うち左。」

 「じゃあ残りは真ん中か~…」


真ん中を見ると一瞬、自分の目を疑った。

なぜ、またあの青年に会えたのか。

顔が熱くなる。胸の鼓動は早くなる。

この場から逃げたくなる。

しかし青年ともっと話したい、昨日の夜ごはんどうしたのかと

聞きたい。


 「…ども。」

青年もあたしに気付いた。

すこし驚いた表情を見せた。

あたしはその表情を見れただけでうれしくなる。


 「知り合い~?」

同期の声で我に返る。

 「あの工場でお世話になった人だよ。」

 「まじいっ!?」

 「うちのものがお世話になりました。」

安住先輩がそう言うと、青年は いえ と会釈をした。

 「さ~あ、行くぜ~」

 先ほど けんたと呼ばれていた人がそう言い、居酒屋へ向かった。




 「じゃあ、自己紹介行きましょう!」

みんな軽く自己紹介をして、乾杯した。

青年の名前は滝沢かつき と言うらしい。

久々の飲み会なので少しハイテンションになった。

 ふと周りを見てみると同期も先輩もそれぞれ狙った獲物のところにいた。

あたしも獲物のところへ行きましょう。

そう思い、青年の隣へ座った。


 「お酒飲めるの?」

青年にそう聞かれ、うんとうなずく。

 「俺、お酒好きじゃなくて。」

 「弱いの?」

 「ううん。まずいから嫌いなだけ。」

 「なんじゃそれ。」


 「ねえ、昨日卵買わなくて平気だったの?」

 「うん。」

 「そうなんだ。」


沈黙が流れた。

もっと聞きたいはずなのに、なんにも思い浮かばない。

だめだ。青年の横顔に見とれてしまいそう。

もう話さなくていいや、隣にいてくれれば。




 チョンチョンという、かわいい鳥の歌声に目を覚めた。

思考回路が回らない。そして周りを見た。見覚えのない風景。

少し離れたところにあの青年が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。

ふと下を見ると、昨日の洋服のまま。

 「えっ????」

 「おはよう。目覚めた?」

青年はあたしに気付き、コーヒーを置き、新聞を畳んだ。

・・・記憶をたどってみる。


 居酒屋で飲んで、みんなでけんたさん家に宅飲みしようと言い出して。

そうだ、あたしが断固拒否したんだ。

そしたら…ここにいる?

 「大丈夫だよ。何もしてないから。」

青年は少し微笑みながらそう言った。

それはそれで女として空しさを感じます。

これが草食系男子。

 「すみません。もう帰りますね。」

あたしが帰ろうとしとき、青年が問い出した。


 「なんであんなに拒否したの?」

 「えっ?」

 「けんたさん家に宅飲みしようとした時。」

少し嫌な思い出が頭によぎる。

 「ちょっとしたトラウマがあってね。」

 「ふうん。」

沈黙が続く。 

 「それじゃあ失礼します。」

 「待って!」

あたしが帰ろうとした時、青年はスマートフォンを持ってきた。

 「泊めてあげたんだから、アドレス教えて。」

 「…はい…」


キター!! あたしは動転していてそれどころじゃなかった。

アドレス聞いてくれてありがとう。

 あたしたちは赤外線で連絡先を交換した。


 「ありがとうございます。じゃあ、失礼します。」

 「ああ。」

あたしは青年の家から出た。

うれしさと緊張とワクワク感と、

これから来るであろう絶望感にも似た感情があたしの心を狂わせる。

あたしには

恋愛の先が見えないから。


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