四章 四節
「いただきます。」
かずはと一緒にかつきの手料理を食べる。
かつきは女性に手料理をしたことがない。だから少し緊張している様子であった。
かつきはチラチラとかずはを見る。
「おいしいよ。」
かずははそう言った。その一言がとてもうれしかったのか、かつきの食べるペースが早くなった。
かずはの笑顔は何回見てもかわいらしい。
しかし今日は違和感がある笑顔だ。
かずはがサラダを食べた。すると
「砂糖入れたでしょ?」
と聞かれたので、あわててかつきも食べる。
「…塩と間違えた。」
かつきはとても悲しそうな、かつ恥ずかしそうにサラダを下げようとした。
ふとかずはの顔を見てみる。するとかずはの目には涙がたくさんたまっていた。
そしてかずはがやっと話して出した。
「兄も料理がへたくそで、よく入れる調味料を間違えていたの。兄の手料理を完食したこがないくらい。
あたしさ、小学生の高学年くらいから夏菜のことでイジメを受けていた。
そのたびにあたしは教室で大暴れをするから大したイジメはされなかったけどね。
中学行ってもあたしに逆らうやつはいなくて、そこで中川さんのいとこの春と出会ったの。
春は字が読めない、書けない。なんか夏菜とかぶって見えてね。
2人で悪いことをしていた。春とタバコ吸ったり、腹減ったら万引きして腹の足しにして。
後半からはあたしも学校行ってなくて春と2人でよく空手道場を外から見ていたの。
そこの師範に空手を誘われて、高校行ってないって偽って空手に専念したの。
でもバレて中学の授業が終わってから来いと言われたけど、中学行きたくなかったから
結局空手も中途半端で終わったの。そこの師範の妹が今のあたしの施設長でとてもよく面倒見ててもらったわ。
そこでかつきも知っている通り事件が起きたの。春とあたしで先輩たちを半殺しにしたの。
先輩は頭がよくていばっていた。そのくせ女にはモテていた。先輩の親父が警視庁のトップだから
先輩に頭があがる先生もいなかった。それが佐々木だよ。
佐々木はあたしの妹の夏菜に暴行したの。夏菜は障害が持っているから、普通の女の子にするよりは
事が大きくならないと思ったらしい。だからあたしも家族も学校も医者も腕にできたひとつのあざしか心配しな かった。
3か月たっても生理が来なかったから病院に行ったら、妊娠しててね。
3ヵ月前といったら丁度佐々木に暴力された時期だったから、佐々木しかいない。
あたしと春で先輩をボコボコにしたのは佐々木を含め3人。佐々木以外の2人に問うた。
レイプをしたのは佐々木だけ。俺たちは見ていただけだと。
兄の彼女は夏菜に子供がいると知った翌日、逃げるようにあたしたちの前から姿を消した。
そして兄は自殺をした。
でも結局流産しちゃった。まあ、まだ13歳だったし。
夏菜って、女性としていい体してるでしょ?
昔からそうだったの。
13歳って性に目覚める時期でもあるでしょ?
頭の障害を持っている人も目覚めるの。でも人がいる前で平気で自慰行為しちゃうんだよね。
女の子はそんなことないけど、男の子はそういう子が多くて。
家裁で、夏菜が人前で胸を露出したって言われちゃって。
そんなこと絶対しないって夏菜の中学の先生が弁解しようとしてくれたけど、認めてもらえなくて。
高校行って、死ぬほど勉強して空手も続けた。大学行って、家庭裁判員になろうと思ったの。
でも試験に落ちて、もう気力を無くしたところで施設長に福祉施設の職員にならないって誘われ
今に至ります。」
かずはの長い話しが終わった。かつきは始終黙って聞いていた。
そしてかずはの笑顔の裏には、それほどの過去を背負ってきたのだと思った。
かつきはやさしく、かずはを抱きしめた。
「辛かったな…。」
かつきはそれしか言えなかった。しかしかずははかつきのその一言で、子供のようにわんわんと
声をあげて泣いた。