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09、ペルセウス腕までに

 ペルセウス腕に到着するまでの十日間、午前中はグレッグはヨニからレクチャーを受けていた。

 そもそも『どうして惑星シビタスを探査しなければならなくなったか』という根本的な動機から、第一次隊、第二次隊の経緯までを、ヨニは詳しく説明してくれた。

「この"TSS"は、その名前の通り、第三次補給支援隊で、惑星シビタスを最初に探査した第一次探査隊"FR"と、次に救援に向った第二次救援兼探査隊"SRI"の支援と補給、そして更なる探査をする為のミッションです、表向きは」

 お定まりの『惑星開拓』であるとヨニは最初に告げたのだが、勿体付けた言い方をしたヨニも十分に気付いていたようだった。

「実は『ピュアゴールド』の探索と採掘らしいです、真の目的は。第一次探査隊、通称『FR』の探査クルーのファン・サンデはあたしの憧れの人だった。その人があたしに明かしてくれたの。もっとも、これは最重要機密だから、グレッグ、黙っていてね。でも、こんなことは公然の秘密と化してるわ、このTSSではね」

 グレッグは静かにうなずいた。

「それでFRの消息は、シビタス到着後一週間で途絶えたわ。計画では惑星にランディングしていた頃だった。全員がランディングする訳ではないはずなのに、記録では『全員惑星にランディング』と記載されているのよ。実に不可思議なの」

「そして第二次救援兼探査隊、通称『SRI』が組織され、FRの救助および探査を目指した。しかし、SRIの経過も同じだった。ただ唯一違うのは、今でも、定時報告を送ってくること。内容は全く意味不明だけどね」

 ヨニは急に涙を流した。

「SRIにレスキューで乗り込んだキム・エギョンは義姉だった。『ファンを助けるんだ』って息巻いて乗り込んでいったのに……」

 グレッグは、微動だもせずにヨニの話を聞いていた。

「……ごめんなさい。今回のTSSには、FRやSRIの親族や関係者が乗船してるわ。彼らの消息を知りたくて乗ったのよ。もちろん生きていればいいけど、死んでいたとしたら、どんな理由で、どんな経緯で死んだのか、それを知りたくてね」

「心中、お察しします」

 グレッグはヨニにそう言葉を掛けた。ヨニは涙を拭き取った後はキリリとした顔になった。

「もちろん、任務は果すわ。それが仕事ですものね。でも、それ以上に私たちを駆り立てるのはそんな動機だってことを知っておいてね」

 グレッグは、そっとうなづいた。


「俺はお前が気に入らねぇな、やっぱり」

 カールは、グレッグを眼見しながら吐き捨てるように言った。

 カールとグレッグが居る場所は、船内のフライトシミュレーターだった。午後からのレクチャーは実務に関する講義および実習であった。主にフライトクルーのサブメンバーとしての知識を習得するカリキュラムになっていた。

「そんなチビなのに、なんで、どうして、俺より操船が上手いんだよ!」

 カールは言いたい放題だった。

「教え方がいいからですよ」

 グレッグは機嫌を損ねないように、カールを持ち上げた。だが、効果は逆だったようだ。

「なんだとぉ? お前、俺の知らない操船をこれ見よがしにやってるじゃねーか! どこが『教え方が上手い』なんだよぉ!」

 カールは、グレッグに対して怒鳴り散らし、グレッグはそれを煮え切らない態度で受け止めていた。

「もういい加減にしてよ、そこの二人! 大事なミッションなのにそんなことじゃ、この先が思いやられるわ」

 制御室でコントロールしている、腕を抱えて深刻な顔をしたカサンドラの画像が、シミュレーターのアウトフィールドスクリーンに映し出された。

「グレッグ、確かにあなたはオブザーバーかもしれないけれど、何が起こっても対処できるようにクルー全員が操船できる必要があるわ。これはそのためのレクチャーなのよ。それに一旦、一つの船に乗船したら全員が運命共同体よ。『郷に入れば郷に従え』で、我々のやり方に対応して欲しいわ」

 カサンドラは、グレッグに捲くし立てた後、一息入れてからカールに話し掛けた。

「カールも大人気ないわね。相手を見てやり方を考えろって、このあたしがいつも口酸っぱくいっているのを忘れたの! だいたい、グレッグは選り抜きの軍人さんよ。彼は、六万光年の距離をたった三日間で踏破するような、我々の船よりも高速の船を操っているのだから、概要だけを話せば十分。自分の思い通りにしようとするからダメなのよ、まったく!」

 シミュレーターの中で二人の男は、まるで母親に怒られたかのようにバツの悪い顔をして、お互いの顔を見合わせた。

「一番ヤバイ人間を怒らせちまった」

 カールが小声で言った。

「そりゃ、ホントか?」

 グレッグも小声でカールに訊いた。

「あぁ、そりゃあ、もう」

 カールの反応に、グレッグが応えた。

「そりゃ、申し訳なかった」

 グレッグの謝罪に、カールは軽く手を振った。

「んにゃ、いいってことよ。いつものことだから」

 しばらくの沈黙があってから、カールが喋った。

「さて、もう一度おさらいをしますか、グレッグさんよ」

「よろしくお願いします」

 カールとグレッグは顔を見合わせて、お互いにニヤリと笑った。その様子を見て、モニタリングしていたカサンドラの表情がやっと柔和になったのだった。

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