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07、発進

「最終気密テストのチェック終了。オールグリーン」

「発進のため船内の隔壁を閉鎖……閉鎖完了」

「エンジン始動、エネルギーチャンバー出力上昇中、まもなく定格まで上昇完了します」

「ドックスタッフへ入電。ボーディングブリッジの撤去を要請します」

 カールとカサンドラの掛け合いは終わりに近づいていた。

「キャプテン、これよりドックから出ます。コントロールへの連絡をお願いします」

「相分かった」

 カルバートは、通信のスイッチを入れた。

「こちら、TSS。管制センターへ。これよりスターティングポイントへ向かう。タキシングを許可されたい」

「こちら、コントロールよ。TSSのタキシングを許可するわ。それじゃあ元気でね」

 応答したのは、シルヴィだった。

「あぁ、行ってくるよ」

 いよいよドックからスターティングポイントまでタキシングに入った。ゆっくりと宇宙船が動き出し、やがて真っ暗な宇宙空間へ船体を晒し始めた。

「スターティングポイントまで、あと五分。クルーは耐ショックシートの確認を行え」

 クルーはシートに備えられた「スタート」のボタンを押した。すると、椅子が変化して最大十Gに耐えられる姿勢へと変化した。

「方向転換開始します。これよりフルオートの操船に入ります。フルオートクルージング起動。やっぱりこの雰囲気は堪らんぜよ」

 カールはこの瞬間が大好きだった。大きな図体のスペースシップがそれまでちょこまかと動いていたのが、一瞬に加速してその場から姿が消えるという瞬間が。その時、クルーには五G程度の加速度が加わるのだが、急に身体が重くなるその瞬間がカールは大好きなのだ。

『クルージングプログラムのクリスです。以後はわたしの指示に従ってください』

「おうおう、了解だぜ」

 カールは浮かれていた。

「DSエンジンのコヒーレント臨界点到達まで、あと三分。ジャンプ位置の座標入力完了。制御を"クリス"に移します」

 カサンドラは、フルオートのボタンにタッチした。

『エンジンセクションの制御をこちらにシンクロしました』

「頼むわよ、クリスちゃん」

 カサンドラは、擬人化されたクリスにいつものように返答をした。

『了解。最終的に到達する目標の宙域と星系及び惑星は、ペルセウス腕・カシオペヤ座・散開星団 M一○三、Σ一三一近傍の十等級・第三番目恒星系、第二惑星シビタスを確認』

「OKだ、クリス。日程は?」

 カールは航程を再確認した。

『直線移動では、天の川銀河のコアを通ることになりますので、最短距離で回避するコースを選択。二百七十時間で到着する予定』

「えーと、およそ十二日だな」

 カールはクリスに聞き返した。

『そういうことになります』

 クリスの答えに、ヨニが溜息をついた。

「二週間か。結構掛かるのねぇ」

 ダリウスが口を開いた。

「我々はその間に、惑星シビタスについて観測し、全てを調べ上げておかないといけないから、十二日間なんてあっという間に過ぎてしまうよ。シビタスに近づくにつれて情報が増してくるしね。初めのうちにバカンス気分を抜いておきなさい」

 ヨニはちょっと膨れた。

「あたし、そんな旅行気分じゃありません!」

 リン女史がヨニにニッコリと笑ってフォローした。

「ごめんなさい。ダリウスはいつもこうなの」

 ヨニはリン女史に微笑んだ。

『スターティングポイントに到着。発進許可を』

 カールはクリスの指示に従って、管制センターに通信した。

「こちら、TSS。スターティングポイントに到着した」

「こちら、コントロール。発進を許可します。許可シグナルを送信」

『許可を受信。フィールドを開放。DSエンジン、出力をマキシマムへ』

 管制センターのシグナルを受けて、クリスが船を手順書通りにミリセコンドの制御で操船していた。

 ディメンションストリングスエンジン、略してDSエンジンは、人類が発明した時空跳躍航法で、超弦理論の十一次元の構造から導き出されたその推進の仕組みは、内燃機関ではなく外燃機関的なのだ。推進装置の工学的構造解説は難しいのだが、簡単に言うと船体の表面全体が推進装置となっている。非常に安定した乗り物で、距離の跳躍だけでなく、時間をも超越する。確かに移動には微妙に実時間が掛かっているのだが、ウラシマ効果を無視できるものであった。要するに「リアルタイムで」「瞬時に」「場所を移動する」という航法なのである。

『加速を開始します。DSエンジン・オン。ドライブ開始』

 クリスが静かに船を発進させると船体が青白く輝き出し、漆黒の宇宙空間あった外の風景は一瞬にして白く変わった。それと同時に、体を強く押し付ける力を感じる。これがDSショックと呼ばれる加速度である。

「くーっ! この加速感が堪らんぜっ!」

 カールだけは、歓喜の雄叫びを上げていた。カール以外は、加速重力で顔を歪ませていた。

 もう一人、全然表情を変えずに平然としている男がいた。それはオブザーバーのグレッグだった。

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