05、キャビン案内
「さぁてと。誰かのせいで遅れた分を取り戻すとするか」
捨てゼリフを残して、カールも足早に船内に消えていった。
「それが余計な一言なのよっ!」
それを追うようにカサンドラも走り出していた。
残った四人はそれを見て、クスクスと笑っていた。
「あの二人は絶妙なコンビだな。これからの行程、十分に頼もしいよ」
そうダリウスが呟くと、リン女史が相槌を打った。
「えぇ、本当に」
ヨニは、グレッグのトラベルバッグに近づいて言った。
「グレッグさん、キャビンを案内します。荷物をお持ちします」
だが、ヨニにはトラベルバッグを持ち上げることが出来なかった。
「何て重いんですか、このバッグ!」
ヨニが悲鳴を上げているのを見て、ダリウスがバッグに手を掛けた。
「どれ、私が持ってあげよう」
しかし、ダリウスが両手で持ち上げようとしてもビクともしなかったのだった。
「あ、いいです、いいです。僕、自分で持っていきますから。部屋の案内をお願いします」
そう言って、グレッグは自分のトラベルバッグ二つをヒョイと持ち上げて、軽々と通路を歩き始めた。グレッグのその姿に、ヨニとダリウスは目を丸くした。
「尋常な重さじゃなかったぞ、あのバッグは……」
ダリウスの独り言がこっそりと通路に響いた。
キャビンの通路を歩いていたヨニが立ち止まって振り向いた。
「ここがグレッグさんのお部屋です。向かいの部屋はあたし、キム・ヨニです」
ヨニが、指し示して案内した。
「私の部屋は君の部屋のその先で、リン女史は私の向かい側だ」
ダリウスが説明をした。
「通路の突き当たり正面が、キャプテンのカルバートの部屋で、両脇がパイロットのカール、エンジニアのカサンドラの、それぞれの部屋になってるわ」
リン女史が付け加えた。
「ありがとうございます。なに分にも突然命令されましたので、ブリーフィングの一切が分かりません。出航後に、分からない事項についてはいろいろとお尋ねすることになりますので、くれぐれもよろしくお願いします」
グレッグは丁寧に頭を下げた。
「なに、大丈夫ですよ。我々もオブザーバーのあなたが軍人であることは心強い。こちらこそよろしくお願いしますよ」
ダリウスがそうあいさつして、三人はグレッグに会釈をした。グレッグも慌ててお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくであります」
「我々は、出航前の再チェックを行いますので、これで失礼しますよ。荷物を置いてキャプテンのところへどうぞ」
そう言って、ダリウスとリン女史とヨニは、キャビン通路からそれぞれの部署へ散っていった。誰もいなくなったことを確認したグレッグは、部屋のロックを開けて部屋に入った。
「この小さな『機体』は、やや演出し過ぎかもしれなかったな。取り敢えず『補器』を置いて、旧友のカルバートにあいさつと洒落込もうか」
グレッグは、無機質なプラスチックホワイトの部屋に、ハードケースのバックパックを肩から下ろし、ハードケースのトラベルバッグをその両脇に置き、自室を後にしたのだった。