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24、シビタス離脱

 バックパックを背負ったグレッグは窮屈な通路を、バッグパックのために屈みながら進んで、フライトデッキに到着した時に、グレッグは感想を漏らした。

「なるほど。このために小さな機体だったのか。しかし、やることが少々せこい感じもするが」

 フライトデッキの扉を開けると、そこは真っ暗な空間になっていた。静まり返っていて、操作盤や計器盤に光もなく、全ての電源が落ちているようだった。

<クリス、聞こえるか? クリースッ!>

 グレッグの呼び掛けに何の反応もなかった。グレッグはフッとニヒルに笑った。

<そうか、ファントムのヤツはここを陥落させたのか。考えたものだな>

 グレッグは、アイグラスを暗視モードにして、フライとデッキの中へ入っていった。そして、メインスイッチを入れたり、起動手順を再度操作してみたりした。だが、航法コンピュータはもとよりレーダーや通信装置も、全ての電源が入らなかった。

<なかなかやるじゃねぇか、あのファントム野郎>

 グレッグは、フライトデッキの中央で歩を止めた。

<だが、まだ理解してねぇようだな。あのファントムより俺の方が三十二乗ほど『上手(うわて)』だってことを>

 グレッグは、バックパックを肩から下ろして、フライトデッキの中央にバックパックを立てて置いた。そして、グレッグはフライトデッキから退出して扉を閉めた。

<おっと、声を音波にもどさないと>

 グレッグは通信装置会話から音波会話へと変更した。

「アー、アー。本日は晴天なり。よしOKだ」

 グレッグはフライトデッキの扉を閉めて、扉の前に対峙するように向き直ってから王立ちになった。

「ディメンショナルスレーブセンサー、オープン!」

 グレッグが叫んだ後、フライトデッキの中に『ザクザクザク』という音と共に軽いショックが伝わってきた。

「ストリングス開放、スレーブにチャンバーエネルギーを注入!」

 フライトデッキの扉の、マイクロメートルオーダーの隙間から眩い光が漏れてきたのだった。

「……今だ、DSフラッシュ!」

 フライトデッキから大きな音をシャウトしたような、或いはミュートしたような音が漏れて船体が大きく揺れたのだった。

「よぉし、これでTSSの全機能を俺が掌握した」

 勝ち誇ったように腕を組んだグレッグであった。

 グレッグのバックパックには、超小型化されたDSチャンバーが入っていたのだ。それにセンサーを同期させて、フライトデッキ内のあらゆる機械にセンサーを打ち込み、四次元時空の機械を励起して強制的に動作させるモノであった。

 グレッグがフライトデッキに入ると、DSチャンバーのセンサーポールがフライトデッキ中の操作パネルに突き刺さっていて、センサーポールがほのかに光り輝いていた。

 グレッグがセンサーポールの一本を掴むと同時に、フライトデッキの装置が起動し始めた。

『クルージングプログラムのクリスです。おはようございます。音声認識:グレッグ。CDFモードでの起動でしょうか?』

「クリス、憶えていてくれたんだ。もちろん、CDFモードで起動してくれ」

『了解。全てのシステムオールグリーン。何やら清々しい感じがしますが?』

「気のせいだろ」

 グレッグはニヤリと笑った途端に、嫌な音声が頭の中に響いた。

≪お、おのれぇ~、もう容赦はせんぞ!……殺す! お前達を殺す! 二度とお前達の世界に帰さん!≫

「おぉ、そいつはヤバイなぁ」

 グレッグが軽くいなすと、ファントムの怒りは益々増長した。

≪命があったことも分からないくらいに、微塵にしてやるっ!≫

「さぁて、出来るのかなぁ、そんなこと」

 グレッグは、センサーポールを握ったまま、クリスに命令をした。

「クリス、エネルギーチャンバーは動作するか? 動作するならすぐに起動だ。そしてDSエンジンを駆動してくれ。そして、低出力でもいい、DSエンジンをオンして、ドライブを開始してくれ」

『了解。チェック中……チャンバーに損傷なし、異常なし。直ちに起動。エネルギーチャンバー起動完了。エネルギーウェーブ出力上昇』

 TSSの船体が大きく揺れて破裂音が船内に響いた。

「予想通りだ。奴さん、デブリをTSSにぶつけてきたな。クリス、DSエンジンはまだか?」

 グレッグの指示に、クリスが反応した。

『DSエンジン、チェック中……損傷なし、異常なし。DSエンジン、駆動シーケンス開始。DSエンジンにエネルギーウェーブを注入します』

「ちょっと時間が掛かるな」

 その間も、デブリの衝突が続いていた。

<グレッグ、どうしたの? 船体がひどく揺れているわよ>

 ヨニが心細くなって、グレッグに通信してきたのだった。

<ファントムが攻撃してきたようだ。俺達を木っ端微塵にするらしい。だが、大丈夫だ。DSエンジンさえ駆動できれば何とかなる。ところで、カルバートはどうなんだ?>

<現在、頭部のオペ中。だから揺らさないで欲しいのよ>

<分かった。もうしばらく待ってくれ、頼む>

<分かったわ。何とかするわ>

 ヨニはそう言って通信を切った。

『DSエンジン、駆動開始条件であるエネルギー充填率二十五パーセントに到達。DSエンジンの駆動を開始します。イグニッション!』

 クリスの報告に、グレッグは膝を叩いた。

「よし、これでOKだ」

『DSエンジン駆動開始、エネルギーウエーブ充填率六十八パーセント、DSエンジン・オン、ドライブを開始しました』

「クリス、デブリ衝突による損害を報告してくれ。出力ができるかどうかをチェックだ」

 グレッグは、顎に手を当ててクリスの報告を待った。

『チェック完了。外装の損害は軽微。船体中央部に集中していますが』

 その報告を聞いたグレッグは、すぐさまクリスに訊ねた。

「俺のDSチャンバーから流し込まれたプログラムをプラグインしたか?」

『はい、嫌でも強制的にプラグインされましたが』

「それじゃあ、コマンド発令! DSフィールド放射開始だ」

『DSフィールド放射開始します』

 放射を開始した途端に、船体は全く揺れなくなった。ファントムが送り付けているデブリが、TSSの船体表面にあるDSエンジンの出力装置から発せられるエンジン出力で分解されて、船体に当たることがなくなったのだ。

「まぁ、一種の"バリア"だな」

 船体表面全体が出力装置のため、くまなく船体を覆った"フィールド放射"がTSSを守る働きをしているのだった。

「クリス、もう少しフィールド放射の出力を上げてから、船体を動かしてくれ。この星の周りにある『デブリ』を消滅させる。もちろん、FRもSRIもだ」

『了解。航路設定は?』

 グレッグはニヤリと笑った。

「そんなもの、適当だよ。とにかく、ファントムの道具を減らすんだよ。それくらいのことは、TSSのDSエンジンと俺が流し込んだプラグインの中の『殲滅プログラム』で対処できるぞ」

『イエッサー』

 クリスは、グレッグの『殲滅プログラム』を駆使してデブリ掃除を開始した。惑星シビタスを惑星離脱速度ギリギリで周回し、白く輝いたTSSはデブリに突っ込みながら、TSSの先端部分で尽くデブリを消滅させ、FRもSRIも粉々にしてしまった。

『殲滅プログラム終了。デブリはおおよそ二十センチメートル以下の屑になりました』

「よし、OKだ、クリス。これでこんな風にフィールド放射をしない限り、この星には近寄れないだろう。デブリで宇宙船が破壊されるからな。これで、この惑星シビタスに近づくものはいないはずだ」

 グレッグは満足気に呟いた。

「クリス、惑星シビタスを離れるぞ。そして、その勢いでΣ一三一近傍の十等級・第三番目恒星系も離脱する。DSエンジン出力最大。最大船速で発進せよ!」

『了解。DSエンジン、フルスロットル!』

 その時だった。

 ファントムが最後の攻撃を仕掛けてきた。

≪ぅおおぉーっ! 殺してやるぅーっ!≫

 強烈な思念波がTSSを襲ってきたのだった。

<きゃーっ! 頭が壊れそうーっ!>

 ヨニの叫びが、グレッグの通信装置を介してグレッグに流れ込んできた。

『あ、あ、クリスも、へ、ん調し、てしまい……』

 クリスも、そしてTSSの装置もオシャカになりそうだった。

 グレッグも苦しみながら、DSチャンバーのセンサーポールを強く握り締めた。

「くそぉーっ! ファントムのヤツ、最後の力を振り絞って攻撃してきたな。本格的にやばいぞ、こりゃ」

 グレッグは、左右それぞれの手でセンサーポール一本ずつを握り締め、仁王立ちになった。

「奥の手を使うしかない。DSドライブ・オン! 次元断層停留時間をリミット限界まで延長しろ! ファントムを断層に落とし込む!」

 TSSのフライトデッキのウインドウからは、極彩色の世界と暗黒の世界と眩い世界とか交互にゆっくりと点滅するように切り替わっていった。

「む、む、む、むぅ。耐えてくれ、TSS。耐えてくれ、クリス。正常に働くんだ!」

 グレッグは必死だった。腕の辺りからは放電が走り、きな臭い煙がグレッグの身体から薄っすらと立ち昇った。

「ぐ、ぐ、ぐ、ぐ」

 どれだけの時間が過ぎたのだろうか。

 五分? 十分? もっと長かったような。

 いやいや、ほんの数十秒だったかもしれない。

 やがて、様々な次元世界の狭間から小さな声がこだました。

≪ギャーッ!≫

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