22、惑星脱出
グレッグとヨニは、がむしゃらに走った。そのスピードはおよそ時速八十五キロメートルに相当した。
しかし、グレッグの言葉が、そのファントムを構成する数多くの精神に効いたのか、追いかけてくるような雰囲気はなかった。
そして、ちょうど【フライ】の横を通り過ぎようとした時に、ヨニはバランスを崩して止まった。
<何かに引っ掛かったわ>
グレッグは、ヨニの近くへ戻ってきた。足元を見るとイエローオーカーのスペーススーツの一部が見えていた。
<これはひょっとして……>
<え、まさか!>
グレッグとヨニは砂を掻き寄せた。するとイエローオーカーのスペーススーツに身を包んだカルバートが姿を現したのだった。
<キャプテン!>
<カルバート!>
グレッグはまず、カルバートの顔色を見た。まだ肌色の人間らしい顔をしていた。それからカルバートの胸に手を当てた。
<まだ、生きている。急いで運ぼう>
グレッグはカルバートをヒョイと担ぎ上げて再び走り始めた。その後をヨニも時速八十五キロメートルで追っ掛けた。
<レーダーで確認したわ。もうすぐ【コバンザメ】よ>
ヨニの言葉に係わらず、グレッグは【コバンザメ】に命令した。
<【コバンザメ】に命令、エアロックをオープン、グラビティエンジン始動、我々がエアロックに入ったと同時に発進、大気圏外への脱出を敢行せよ!>
『ウェークアップ完了。CDF権限:承認。緊急モード:継続中。命令を受理。直ちに実行します』
【コバンザメ】からの返信が入電した時、【コバンザメ】の船体が認識できた。
≪おのれ、許さぬ! 絶対に許さぬ!≫
追いかけてくるファントムが砂嵐ではなく砂津波を起こしながら、ひどい形相の顔を砂で造形しながら、すぐ後ろに迫ってきていた。
<キャー! 間に合わないよぉー!>
ヨニは必死に走りながらわめき散らしていた。
<ヨニ、全然大丈夫だ。俺の力を甘く見てもらっちゃあ、困るんだよね>
そう言うとグレッグは、右腕を上に上げた。すると砂嵐も、砂津波も、空中に砂で造形されたファントムの顔も全てその場でストップモーションで止めたように動かなくなってしまった。
≪き、貴様! 何をやったのだ! 放せ! 放すんだっ!≫
ファントムは全く動かないまま、声だけが空威張りのように虚しく響いてきた。
<だから言っただろ、お前は俺よりも『低次元』だって>
グレッグは鼻で笑いながらエアロックに入り、ヨニを引き入れた。
<【コバンザメ】、エアロックを閉じろ。そしてすぐに上昇だ。急げ!>
『了解。エアロック閉鎖。グラビティエンジン出力上昇、緊急浮上』
【コバンザメ】はスルスルと空中に浮かび上がり、そのまま急上昇して加速し、大気圏外へと脱出したのだった。
<どうなっているの? 砂が全部、止まったけど>
ヨニはグレッグに訊ねた。
<簡単なことだよ。ヤツとヤツの周りの空間を、時空のちょっとした断層に蹴り落としてやったのさ。すると「落とし穴」から這い上がるまでの間、時間の流れがちょっと止まるんだ。例えるなら、走ってきたら落とし穴にはまって動けなくなっちゃった、という感じ>
<ふーん、よく理解できないけど、そういうことなのね>
ヨニは首を小刻みに振りながら相槌を打った。
<そんなことよりもカルバートをメディカルカプセルに入れるのを手伝ってくれ>
<あ、あぁ、そうだったわね>
ヨニは慌てて、カルバートをメディカルカプセルに搬送するグレッグを手伝ったのだった。