18、フライとコバンザメ
「全員、集合したかな?」
相変わらず正気のないカルバートが、イエローオーカーのスペーススーツを着込んだクルー全員に声を掛けた。
TSSの格納庫には、二艇のシャトルバスが搭載されていた。一つは大型の貨物運搬用で大きなカーゴベイが目立ち、それが孵化したばかりの稚魚に似ているので【フライ】と呼ばれていた。もう一つは偵察用の四人乗り小型艇で【コバンザメ】の愛称がついていた。
「では、乗船しよう」
そう言ってから、カルバートはちょっと頭を抱えて苦しみながら言葉を吐いた。
「グ、グレッグとヨ、ヨ、ヨニは『コバンザメ』で、行け!」
そう言うとカルバートは気絶した。
「大丈夫ですか?」
「船長、お気を確かに!」
駆け寄ったカサンドラとリン女史は、カルバートを抱えながら【フライ】に乗り込んでいった。
その場に残されたグレッグとヨニはしばらく呆然としていた。
<カルバートのヤツ、多少の『正気』が残っていたんだ。そうだよ、そうなんだよ。カルバートは強靭な肉体と強靭な精神を持っていたんだ。カルバートの正気は何かと戦っているんだよ>
グレッグは、旧友のカルバートに敬意を表していた。そして【フライ】が射出されていくのを見守った。
<ヨニ、俺達も行こう!>
<えぇ!>
グレッグとヨニは【コバンザメ】への搭乗を急いだ。
パイロットシートに着座したグレッグはいきなりメインスイッチを入れた途端に叫んだ。
<GSF秘密コード"CDF"を発動。パスフレーズはこれだ>
少々の沈黙の後、船内制御装置が喋り始めた。
『強制コード受理。緊急モードを発動。【コバンザメ】は、これ以降は"CDF"以外のコマンドは受け付けません』
<よぉし、それでいい。外部からの侵入も遮断してくれよ>
『了解』
グレッグは、コパイロットシートのヨニを見た。
<しっかりシートベルトをしてくれ。これからはショックなことが起こるかもしれない。だけど、俺を、このグレッグを信じてくれ。CDFの名に懸けて、俺はお前を守るからな>
<うん>
ヨニは小さくうなづいた。
<TSSのクリス、応答せよ>
ヨニから視線を外したグレッグはクリスに呼びかけた。
『こちら、クリス。"CDF:グレッグ"を確認』
<まだ、秘密コードは生きているな>
『はい、仰せのままに』
<申し訳ないが、我々がTSSに帰還するまでは"スリープモード"で対処してくれ。いいな>
『了解。これより自閉症モードに切り替えます』
グレッグは溜息をついた。
<これで、ひとまずは対策が終わった。あとは相手がどう出るか、だな>
<そんなにヤバイ相手なの?>
不安そうにヨニが訊いた。
<分からない。ただ一つだけ言えることがある>
グレッグは人差指を立てて答えた。
<それは何?>
ヨニが興味津々で再び質問した。
<そいつは、少なくとも俺よりは"低次元"のはずさ>
グレッグはヨニの方を見て、ニッコリと微笑んだのだった。