17、装備の準備
グレッグはヨニの手を引っ張って、一緒にフライトデッキを退散した。
<俺の部屋へ一緒に来てくれ>
ヨニはポッと顔を赤らめた。
<なにも今、急に。そんなこと……。一時間では性急過ぎるわ!>
<はぁ? 何を勘違いしてんだよ! 着陸に際して必要な装備を『機体』に施すんだよ!>
<あ、いや、あ、そうなの。ははは……>
<俺達の身体は『機体』だ。装備さえすれば戦闘に及んでも、ある程度のことには対処できる。俺は今回、偶然なことなのだが装備を一式、余分に持って来ている。それをお前に装着させるから>
ヨニはちょっぴり残念な思いだった。
<分かったから、そんなに手を引っ張らないで>
<あぁ、すまん>
グレッグはヨニの手を離して先を歩いた。そして、ヨニはグレッグの後を速足で歩いていった。
グレッグの自室に入ると、乗船時に運び込んだ迷彩色の三つのバッグがそのままの状態で置かれていた。
<そっちのトラベルバッグを移動させてから開けてくれ>
グレッグにそう言われたヨニは、そのバッグを持つことを躊躇した。以前、このトラベルバッグを持ち上げられなかったからだ。
<さぁ、早く!>
グレッグに急かされて、ヨニは仕方なくトラベルバッグを持ち上げてみた。すると意外なことに軽々と持ち上がったのだ。
<あら、やだ。なんて軽々と持ち上がるのよ! もうバッグの中身は出しちゃったの?>
ビックリしているヨニに、グレッグは意外な返事をした。
<いや。乗船した時のままで、バッグからは何も取り出していないぜ>
その言葉に、ヨニは更にビックリしたのだった。
<それじゃあ、なんであたしの力で持ち上がるのよ!>
グレッグは、溜息をついてヨニを見てから言い放った。
<だからさ、俺がお前の『機体』のパラメーターをいじったって言っただろ!>
ヨニはようやく合点がいった。
<あ。そっか>
ヨニはそそくさとバッグを移動させてバッグを開いた。
<開いた右手の手前にヘッドセットのようなモノがある。これは妨害かく乱防止装置だ。外耳を外してから装着してくれ>
<え? 耳を外すの? そんなこと、出来ないわよ>
そう言ってヨニはグレッグを見た。するとグレッグは、耳を九十度回転させて引っこ抜いてからヘッドセットから出ている棒を耳を抜いた穴の中に突っ込んで装着していた。
<ひぇ~、そんなことするの~!>
グレッグは一々、ヨニの方を見ていなかった。
<さっさとやれよ!>
グレッグの言葉で威圧されたヨニは、渋々自分の耳を回転させて引き抜いてからヘッドセットを装着した。
<あら、こっちの方が良く聞こえるわ>
グレッグは淡々と、次々にヨニに指示を与えた。
<次は、バッグの左下にあるサーチディスプレイ付き耐光線アイグラスだ。目頭の涙腺ボタンを押すと眼球が外れるから、替わりにアイグラスを装着するんだ>
<今度は『目』ですかぁ~>
ヨニは涙腺を押した。するとストンと手の中に眼球装置が飛び出してきた。それと入れ替えに真っ黒なサングラスの片目部分ようなものをカチャリと装着し、もう一方の目も同じように換装した。
<うわぁ、必要な情報が何でも見えてるわ。これは便利なものだわ>
<感心ばっかりしてんじゃねぇよ。今度はマスクだ。左側中央にあるフェイスマスクを装着してくれ>
顎を思いっ切り下に下げて顎部分を取り外してから、フェイスマスクを装着した。
<特にお前は生身の脳髄が入っているから念入りにやっておかないとな>
グレッグはメチャクチャ大量のシールド剤でマスクとのすき間にスプレーしてくれた。
<今度は装甲だ。腕と肩と足に、バッグの奥にあるプロテクターを装着してくれ>
<これ、どうやって着けるの?>
<それぞれのプロテクターをその部分に当ててから『装着』と念じるんだ。すると機体に引っ付くよ>
ヨニは半信半疑で、腕のプロテクターを当てて念じてみた。
<装着!>
するとプロテクターは見事に引っ付いて取れなくなった。
<あ、ホントだ! あたし、自分の身体のこと、全然分かっていなかったわ。スゴイわねぇ>
プロテクターを装着し終わったら、グレッグは小さ目のチャンピオンベルトをヨニに差し出した。
<腹を出せ>
ヨニはグレッグの不躾さに立腹した。
<なによ! 腹を出せってレディにいきなり言うなんて失礼ね!>
グレッグはまたしても呆れた。
<何を言ってんだよ、このクソ忙しい時に恥ずかしがりやがって! これは、万が一の時のための、お前の脳ミソを守る生命維持装置だ。臍の穴を通して装着するんだよ!>
ヨニは、赤くなりながら黙って服をたくし上げて臍の周りを露出した。グレッグは、思いのほか優しくベルト型の生命維持装置を臍に装着してから固定した。
<装備はこれでよし、っと! あとはこの上からスペーススーツを着ればいい。ちょっと大き目のスーツを選択した方がいいかもしれない>
<分かったわ>
ヨニは大きくうなずいた。