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15、二つの機体

「あたしは十二歳の時、スペースポートの見学中に搬入用大型エアロックに挟まれて下半身を失ったわ。同級生の『いじめ』だったわ。ひどい話でしょ、命さえ奪われかねない程の『いじめ』なんだから」

「それから六年間は病院でICUに入りっ放し。辛かったわ。自分でも生きているのか死んでいるのか、分からなかった。じーっとベッドに横たわったまま、昼も夜も感じられない時間の流れの中で、ひたすら学習をして知識を吸収して暮らしたわ」

「十八歳の時に法律的に自我を認められて、脳髄を移植する全身サイボーグ化を選択したの。自分の外装を自由に選択できたけれど、結局は普通の地味っぽい容姿を選んでしまった。それからはこの機体のままで暮らしてきたわ」

「あたしの機体は普通の市民タイプなので、パワーとかは一般の女性の平均値に押さえられているし、能力は全てオミットされているわ。ただあたしの機体は、民事裁判の時の判決で最高の機材を選択させたらしいって義姉に聞いたことがあるだけ。本当のことは分からないわ」

 ヨニは、グレッグと二人っきりのフライトデッキで淡々と話をしたのだった。

 グレッグは、ヨニに手を差し出した。

「俺の手を握ってみて」

 ヨニは、グレッグの目を見つめながら、そっとグレッグの手に自分の手を重ねた。

「ヨニ、今、君の『機体』を走査しているよ。……ふむ、ふむ、大丈夫だ。俺の『機体』とは年式が違うだけで、機能的には同じだ。ただオプションの数が違うけどね。パラメータを変更しておくから、パワーの加減に注意してくれ」

 グレッグはヨニの手から離れた。ヨニはしばらくそのままにして自分の手を見つめていたが、やがてグレッグの顔を見た。

「グレッグ、あなたはどうなの? どういう経緯で『機体』に入ったの?」

 グレッグは、ヨニの顔を見てから首を横に振った。

「俺はね、この機械の身体の中に入っている訳じゃないんだ。この機体を"むくろ"として『操って』いるんだ」

 ヨニはまったく理解できていない表情をグレッグに向けた。

「え? なに? それはどういうことなの?」

「前に一度、ヨニの前で『高次元生命体』って言ったことを覚えているかい?」

「なんとなく。不思議な語感だったので憶えているわ」

「その言葉通り、俺はこの四次元時空で生まれた生命体ではないんだ。もっと高次元の、基数よりも指数の方が遥かに大きい世界から"落ちて"きたんだ、俺は」

 ヨニは、ただ目を丸くするばかりだった。

「俺はね、『銭』というモノが大好きなんだよ。その価値観、表現、存在、その全てを愛しているんだ。『銭』という概念はモノの価値観を端的に表す指標であり、同時に『銭』そのものが、欲望の対象になったりする。俺はこの四次元時空の世界に存在する『銭』の魅力に取り付かれた。だから、わざわざ、住む世界の次元を落としてまでも『銭まみれ』になりたかった」

 グレッグはニヤリと笑った。

「馬鹿な生命体だろ。でも、そのお蔭でこの四次元時空の世界もことはお茶の子歳々で操れるんだよ。だから"CDF"なんて役目が務まるんだ。完全に任務を遂行できる男。当たり前だよな。俺にとって、その道理は君達で言うところの足し算や引き算のように簡単なことなんだからね、ハハハ……」

 ヨニはもう一度、グレッグの手を握った。

「グレッグって面白いヒトね。でも、あたしはグレッグの、その話を信じるわ。どうか、この惑星シビタスの謎を解いて。お願い!」

 グレッグはヨニを見つめながら、ヨニの手を握り返した。

「あぁ、分かったよ。CDFの名に懸けて必ず解決するさ。でも……」

「でも? 何なのかしら?」

 言葉を濁したグレッグに、ヨニは相槌を打った。

「今回は君が『立会人』だ。君も生きて帰るんだ。いいね?」

 グレッグの言葉に、ヨニは大きくうなづいたのだった。

 生身の人間である他のクルーたちが何らかの原因で変調していく、そんな状況の中で、グレッグはアンドロイドの身体を傀儡としていること、そしてヨニは不慮の事故による身体欠損によって脳髄以外は全身サイボーグ化していたという、図らずも二人の身上と身体の秘密がお互いにバレてしまい、自分達のことを告白することになってしまったグレッグとヨニだった。

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