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13、惑星シビタス

『クリスより、クルーの皆様にお知らせします。まもなく惑星シビタスに到着しますので、フライトデッキに集合してください。減速時規制に入ります』

 クルージングプログラムのクリスは、惑星シビタスに到着寸前であることを告げた。

『DSエンジン・オフまで六十分。ドライブを終了しますので、DSエンジン・オフの三十五分前までにフライトデッキに集合、耐ショックシートの準備をお願いします』

 DSエンジンは船体外装全体が外燃機関となっているために、ダイレクトな停止が可能である。もちろん無視できない慣性が働くために空走距離が発生するのだが。ともかく、それ故に減速時にも発進時同様のGが掛かるが、減速時は逆向きにGが船体に掛かるため、シートを進行方向とは逆の向きに設定して、減速Gにクルーは備えなければならなかった。

「またまた、お楽しみの時間だぜ」

 ワクワクしているのは、パイロットのカールだけだった。他の者はうんざりとした表情や厳しい表情をしていた。もちろん、そんなことでは全く表情を変えていないオブザーバー、グレッグの姿もフライトデッキに居た。

『DSエンジン・オフまで残り五分』

 クルー達は無口になった。

『カウントダウン開始。三十秒前。エネルギーチャンバー出力上昇中。二十秒前。DSエンジンにエネルギー注入開始』

 TSSの船体にウォルブが発生し始めた。細かな振動が神経を逆なでた。

『十秒前。最終確認終了。オールグリーン。五秒前。四。三。二。DSエンジン、リバースオフ!』

 その途端に、TSSの船体は大きく揺さぶり、船体にストレスが掛かってキーキーと構造体が軋む音がした。細かい振動と大きな揺れに加えて、クルー達は後ろ向きに設置されたショックシートに進行方向へ思い切り押し付けられた。そのために苦痛に顔の歪むクルーもいた。それでも、徐々に振動が減ってきて、三十分後には嘘のように静かになっていた。

『ドライブを終了しました。お疲れ様でした。これより四次元時空をタキシング速度で惑星シビタスの周回軌道へと進行します』

「了解した、クリス。お疲れさん。引き続き、クルージングの制御を頼むぜ」

 ぶっきら棒にクリスの労をねぎらうカールであった。他のクルー達もホッとした表情になって、シートの六点Gベルトを取り外しに掛かっていた。

『左舷前方、進行方向に向って約十四度左に、目視でおよそ十ミリメートル程の惑星シビタスが見えているはずですが』

 そうクリスが案内をすると、若くて目の良いヨニが目敏く見つけて指で指し示した。

「あっ! あれ、あれね! 本当にまっ黄色の星なのね」

 カサンドラは、ヨニの言葉に疑問を呈した。

「え?……黄色くないわよ。青くて緑色をしているわ。まるで私達の地球と同じような」

 カサンドラが指摘したのは青い色の惑星だった。

「本当だ、何てキレイな惑星なんだ」とダリウス。

「ホント、忘れていた何かを思い出させるようなそんな惑星ね」とリン女史。

 口々に惑星シビタスを賞賛する声の中で、もう一人だけその輪の中に入れないでいる者がいた。

「僕もヨニと同様、依然として黄色い、砂漠と化した惑星にしか見えていませんが」

 グレッグの声は、船内虚しく響くだけだった。

「しかし、どうして青色なのかしら? 観測データでは黄色い惑星だったのに」

 リン女史は、いかにももっともらしい疑問を呈していた。だが、誰もその疑問には答えられなかった、一人を除いては。

「どうやったら、あんなに黄色い惑星を緑に見えると言うんだ! ましてや青色とは!」

 グレッグの言葉は、フライトデッキに居る他のクルー達にとってはもはや聞こえていない様子だった。

「キャプテン! どうしたというのですか?」

 グレッグが見たその時のカルバートは、グレッグが知っている、一緒に戦った盟友であるカルバートではなくなっていた。

「地球のように綺麗だ。こんな惑星に遭難するなんて、まるで奇跡だなぁ……」

 そんな言葉を口にしているカルバートだった。

「いったい、どうしたと言うのです? 何が起こったのですか?」

 グレッグは、全く理解できなかった。

『間もなく、惑星シビタスの周回軌道へのコースに乗ります』

 クリスの声もまた、フライトデッキに空しく響いていた。

「やばいぞ、こりゃ。こんなに早く影響されるとは思わなかったぜ」

 この瞬間から、グレッグは小柄で生真面目な高級士官の顔からCDFの顔へと変貌したのだった。

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