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12、警告

 TSSから遠距離の惑星シビタス探査が始まり、探査担当のリン女史が中心となって、DSレーダーや次元解析アルゴリズムで惑星の解析が始まった。

「十等級・第三恒星系は、太陽系に似てるわ。惑星は全部で六つ。外側から一つ目は氷型惑星で、二つ目と三つ目は気体型惑星、内側三つは固体型の惑星ね。えーっと、太陽とほぼ同じ大きさの九十六パーセントで、少しだけ暗い。だけど、このエネルギーの違いは大きいわ。だから、第二惑星の公転域がハビタブルゾーンになっているの」

 模式図をホロニックスクリーンに映し出した。そして、第二惑星がクローズアップされた。

「第二惑星である『シビタス』の赤道半径は五千二百三十キロメートル余りで、地球のほぼ八割の大きさね。衛星は持っていない。まだ遠くて惑星からの恒星反射光を観測しきれていないから結論って訳じゃないけど、スペクトル的にはやっぱり黄色い惑星のようだわ。自転時間は三十時間前後。惑星の様子を確認できないので、これはあくまでもPAIの予測だけどね」

 リン女史は、観測結果を淡々と読み上げていった。

「生命を育む惑星を持つ星系としては、ごく普通のタイプだな。もっとも気体惑星のみの星系でも生命は発生するけれど」

 ダリウスは、腕を組みながら呟いた。

「それは浮遊型の希薄生命体ね。我々のような密度の高い生命体は、やはり固体の岩石型惑星に限られると思うわ」とヨニ。

 リン女史が咳払いをして、惑星シビタスの観測結果報告を続けた。

「もう間もなく、第六番惑星の公転半径の倍の、四十AUの位置に到達します。近づくほどに詳しく惑星シビタスを観測できると思いますが、今の段階ではこの程度の概要しか……」

「報告をありがとう」

 カルバートが謝意を述べると、リン女史はお辞儀をしてシートに座った。

「何か不穏で、ヤバイ雰囲気を感じます。あくまで僕の勘なんですが」

 そうグレッグが口火を切った。

「どういう風に変なんですか?」

 ヨニが切り返した。

「別にどうってこともない星系だぜぃ。何をビビってんだよぉ、軍人さんがよぉ」

 相変わらず口の悪いカールが嫌味タラタラで言った。

「いや、これからが問題かもしれません。この星系内へ足を踏み込むことが」

 グレッグの意味深な発言に、ダリウスが喰い付いた。

「落とし穴でもあるのかね? それとも未知なる物質が充満しているとでも?」

 グレッグはうなづきながら答えた。

「えぇ、端的に言うとそんな感じです。この距離でこれだけクリアに観測できることがちょっと引っ掛かるんです。何かあります、きっと。何かが」

「宇宙で怪奇現象かぁ? 冗談はそのくらいにしとけよ、グレッグ!」

 カールは、敵視しているグレッグにここぞとばかりに悪態を付いた。

「お、脅かさないでよぉ。あたし、そーゆーのは苦手なのよぉ」

 カサンドラは震えながら叫んだ。

「僕の杞憂であれば、それでいいのです。僕は所詮、オブザーバーですから」

 グレッグはすごすごと自分の意見を取り下げた。

「まぁ、いいじゃないか。グレッグにも意見を述べる権利はある。参考にさせてもらうじゃないか」

 カルバートは体良く議論を打ち切らせたのだった。

「これより星系域内に入る。恐らく何かが起こるだろう、二回の探査がそうだったのだから。だからこそ用心深くならなければならない。ミッション中、どんな小さいことでも構わん。気が付いたことがあれば必ず報告するように。以上だ」

 カルバートのまとめで、ミーティングは散会した。クルーはそれぞれ持ち場や自室へ戻っていったが、ヨニとグレッグがラウンジに残った。ヨニはミーティングからずーっと席を立たずに、ずっとグレッグを見ていた。グレッグはミーティングの時から足を組んだまま、ラウンジの中央にあるホロニックスクリーンを見つめていた。

「ねぇ、グレッグ?」

 ヨニはじっとグレッグを見つめたまま、グレッグに声を掛けた。

 突然声を掛けられたグレッグは辺りを見回してからヨニに気付いて、慌てて応答した。

「な、なに?」

 ヨニは姿勢を変えずに口を開いた。

「グレッグのさっきの発言、とっても気になるのだけど」

 グレッグは笑いながら答えた。

「キャプテンの言っていた『ちいさいこと』だよ。あくまで僕の感覚なんだ」

 ヨニの顔は真剣だった。

「その感覚ってどこから来るの?」

 グレッグはしたり顔で答えた。

「それは、俺の高次元生命体としての感覚で……あ、いや、僕の第六感に過ぎないんですけど」

 ヨニは目を大きく見開いた。

「コウジゲンセイメイタイ? それって何なのですか?」

 グレッグは急に焦り始めた。

「あ、この、あの、何て言うのかな、……そうだ、そうだ。GSFで訓練してきた、その訓練感覚ですよ、えぇ」

 焦るグレッグに、ヨニは表情も変えずに次の質問をした。

「GSFと言えば、キャプテンがあなたを『CDF』だと言ってました。この『CDF』って何ですか?」

 少しホッとした表情になったグレッグは、ヨニに近づいた。

「知りたいですか?」

 ヨニも興味津々で反応した。

「えぇ、とっても」

 グレッグは口に人差指を立てて、小さな声で言った。

「誰にも秘密ですよ。CDFとは"コンプリート・デューティ・フルフィラー"の略です」

「こんぷりーと、でゅーてぃ、ふるふぃらー? えーっと『完全なる任務遂行者』という意味になりますけど?」

「えぇ、まぁ、そんなようなモノですね」

 グレッグの受け応えに、ヨニはイマイチ納得できていなかった。

「ふーん。GSFには何人もいらっしゃるの、その『CDF』って呼ばれる方は?」

 何気なく訊いたヨニは、グレッグの返答に驚愕したのだった。

「いいえ、僕一人です」

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