11、恒星系の手前で
『クリスより、クルーの皆様にお知らせします』
当直ワッチのカールを除いた六名がラウンジでトマトソースのスパゲッティで昼食をしている時にクルージングプログラムのクリスの声が鳴り響いた。
『Σ一三一近傍の十等級・第三番目恒星の星域まで、あと一パーセクの距離まで到達しました。規定によりこの地点で、一旦停止して星系の観測を行います。これは今回初めてプラグインされたプログラムです。観測終了までクリスは待機状態に入ります』
クリスが言い終わると同時に、カールが姿を現した。
「という訳で、俺もスパゲッティパーティに加えてくれ」
カースの姿を見て、カサンドラが顔を赤くした。
「あら、やだ。あたし、恥ずかしいわ。カールと一緒に食事をするなんて。今まで、そんなこと一度も無いわよ」
「そうだったけな?」
カールは、カサンドラの気持ちなど察しもせずに、ズルズルとスパゲティを口の中に入れ始めていた。
「さて、全員が揃ったところで、これから接近する惑星シビタスについての対策を練ろうじゃないか」
キャプテンのカルバートはそう切り出した。
「同じことを繰り返していては、FRやSRIと同じ経緯を辿ってしまう。そのため組み込んだんだ、このプラグインを。そして、このパスタ・パーティを」
グレッグ以外の全員がうなずいていた。誰もが『三の舞』だけは御免だと思っていたからだ。
「クルー一人ずつ、意見を述べてもらおう」
カルバートは、クルーに目配せをした。
「楕円軌道で惑星シビタスに近づきましょう。それが一番リスクが低いと思いますわ」とリン女史。
「無人プローブを多用して、十分な観測をした方がいいと思います」とヨニ。
「この地点からの観測を重視したらどうかな?」は、カサンドラの意見。
「やっぱり、通常通りの探査を行うべきなんじゃないかと」と、ダリウスが述べた。
「消息を絶ったってことは危険に違いはねぇ。ただ、その危険がどういう種類で、どう危険なのかが分かんねぇからなぁ」
相変わらず、粗野な言葉でカールが捲くし立てた。
クルーの発言が一周したところで、カルバートはグレッグに振った。
「オブザーバーからも意見を」
グレッグは顎に手を当てて脚を組んで横柄な態度でいたが、座り直してクルー達に向き合った。
「僕は、セオリー通りに進めるべきだと思います。今までと違うアプローチだと、FRやSRIが陥った状況やその原因を掴みづらくなる可能性があります」
グレッグは、クルー全員を見渡した。
「ただ、危険を背負い込まないようにするためには、アラートレベルの設定を慎重に行う必要がありますが。僕の勘なのですが、どうも嫌な匂いが漂っているのです」
「嫌な匂い?」
カルバートは、グレッグに問い質した。
「いや、僕の感じたことに過ぎませんので、気にしていただく程のことではありません」
グレッグの言葉に、カルバートはニヤリと笑いながらグレッグを睨み付けた。
「そうかね。私は君の言葉が一番気になるのだがね」
カルバートがそう言うと、他のクルーは何気なくグレッグの方を見た。
「そんなぁ。ただのオブザーバーの言葉ですから、ホント、気にしないでください」
「そうかね」
グレッグに相槌を打ったカルバートは、テーブルに肘を付いた。
「みんなの意見は分かった。軌道変更は搭載エネルギー量の関係で難しいと思うし、プローブの数量も限られている。だが、出来るだけクルーそれぞれの意見を取り入れて、観測を十分に行い記録を残しつつ先に進むしか方法はないだろう。とにかく慎重にミッションを進めよう」
スパゲッティ・パーティというミーティングを終えた後、TSSはゆっくりと惑星シビタスへと近づいていった。