恐怖の海水浴
いまから、二十年以上も前の話や。
ワシら男四人(杉水、高木、吉田、天音)と女三人(成田、木村、佐藤)で、海水浴に行った時や。
全員仮名やけど……
バーベキューしたあと、野球することになった。
バッター杉水さん。
ピッチャー成田さん。
キャッチャー木村さん。
あと全員、外野。
ワシはセンター付近を守っとった。
そして――
杉水さんが打ったボールが、海の方へ飛んで行ったんや。
ワシ、泳ぎに自信あったから、海に飛び込んで白球を夢中で追いかけた。
ボールを掴んだときに、気づいたんよ。
いや……
もう……気づくのが遅かった。
ずいぶん沖まで来とった。
海水の温度も冷たくなっとったし、海の流れもめっちゃきついねん。
泳いでも、泳いでも、前には進まんかった。
岸から少しずつ離れていきよる。
押し戻されるんよ――
その瞬間、初めて思ったんや。
「……これ、帰られへんのとちゃうか?」
いまでいう「サンダルバイバイ」や。
ワシ、命がバイバイしかけとった。
こういう時って、
かなり体力を削られるんよ。
もう疲れた思て、仰向けになって浮いて、足をバタバタさせたんや。
それが功を成してか、意外に岸に向かって進みよった。
でも、やっぱり体はクタクタや。
するとや――
男女の声が聞こえてきた。
浮き輪を持っとるカップル発見や。
恥ずかしいけど、言うしかない。
もう、命も限界や……
「すんません。浮き輪にちょっとつかまらせてください」
もちろん、声をかけたのは彼氏の方にや。
彼女の方やったら、ナンパと思われるし、
……ワシの身の保証がなくなる。
「ああ、ええですよ!」
快くつかまらせてくれた。
――いっきに、からだの力が抜けた。
ほんまやで……
そして、体力が回復して、また岸の方へ泳いだ。
カップルが、
「なんか今日、ええことしたな」
と言いよった。
――ほんま、あんたらはワシの命の恩人やで……
岸についたら、他の六人も心配しとったようやった。
高木君が、真顔で言いよった……
「大丈夫でした? 肉眼で見えない所まで泳いでいったんで、心配しましたよ」
ワシ、「大丈夫や。ちょっと潜水しとった」と誤魔化した。
あの日以来――
海水浴には浮き輪を持参することにしたで……
いのちの輪や。
―了―




