尋樹(1)
精進落としが終わりに差し掛かった頃、ホールの扉が大きな音を鳴らして開かれた。
「牧原様、牧原たお様!」
わずか十二名の家族葬とはいえ、故人をしのぶ大切な時間に失礼な大声だった。自分の葬儀には別の葬儀屋へ頼んでもらおうと考えながら、名前を呼ばれた私は抑揚のない声で返事をする。七十歳を超えたあたりから声に張りがなくなりつつあった。
「牧原様、大切なお時間に申しわけございません。すぐに来ていただきたいのですが」
周りのスタッフが窘めるのもかまわずに、大声の男性は早足で私に近寄った。そこでようやく、この失礼な男が、先ほど夫を火葬炉へ運んだ人物であることに気がついた。
額と鼻に大量の汗を吹き出させ、乱れた息を隠そうともせず説明に入る。情けない表情をしている。まるで熊や毒蛇にでも遭遇したかのように。命からがら逃げてきたかのように。
要領を得ない言葉の羅列を遮って、私は「いいからはっきり言ってください」と頼んだ。「驚くと思いますが」とか、「落ち着いて聞いていただきたく」などと話すだけでは少しも伝わらない。「故人様に何か特別な持病でも」なんて言われても、認知症でしたとしか答えようがない。
落ち着くべきはあなたのほうでしょう、という言葉を飲み込んで、男性が平静を取り戻すまで待つ。そもそも、彼が想像する特別な持病とは何を指すのだろう。
「つまり、ですね」
男性は指で汗を拭った。親族全員の視線を浴びながら、下瞼を何度かぴくりと動かして、言った。
「遺骨の頭部から、青い木が生えております」




