強気美人、甘さにも敗北する ~激辛パフェから始まるちょっとチョロい出会い~
——あのあと。
連れてこられたカフェは、さっきより静かだった。
窓の外で、春の光がゆっくり揺れている。
「ここです」
「……まともね」
「基準どうなってるんですか」
「辛くない時点で合格よ」
席に座る。
「で、何がおすすめ?」
「チーズケーキですね」
「却下」
「なんで」
「甘さで上書きしたいの」
「なるほど」
男はメニューを見て、指を止めた。
「じゃあ、“白いごほうびショート”とか」
「いいわね、それ」
即決。
——運ばれてきたそれは、やわらかい色をしていた。
「完璧ね」
「さっきも似たようなこと言ってましたよ」
「今回は違うわ」
一口。
「……」
……甘い。
優しいのに、逃げ場がない。
「……どうです?」
「……優しいわね」
「その顔で?」
二口目。
「……」
フォークが止まる。
「無理してません?」
「してない」
「してますよ」
「してない」
私はゆっくりフォークを置いた。
「……ねえ」
「はい」
「これ、一人で食べる量じゃないと思うの」
「またですか」
「学習してるの」
「してる人は同じミスしないんですよ」
「これは検証よ」
「便利だなあ」
少し寄せる。
「……選びなさい」
「え、俺が?」
「責任」
「どの」
「さっきから全部」
「雑だなあ」
——数分後。
「はい」
置かれたのは、小さなプリンだった。
「……地味ね」
「安定してます」
一口。
「……」
ちょうどいい。
さっきまでの甘さが、ゆっくりほどけていく。
「……どうです?」
「……悪くないわ」
「素直じゃないなあ」
「素直よ」
もう一口。
「……ねえ」
「はい?」
「最初から、あなたに任せればよかったわ」
「今さらですね」
「でも、それだと面白くないでしょ」
「まあ、それはそうですね」
少し笑う。
「……じゃあ」
私は立ち上がる。
「次は、もう少し難しいのにしましょう」
「また外しにいくんですか」
「違うわ」
外に出る。
春の空気が、さっきより少しだけ近い。
「楽しみにいくの」
男は少し驚いて、笑った。
「……いいですね、それ」
「でしょ?」
「……で、次はいつにします?」
「今決めるの?」
「決めないと逃げそうなので」
「逃げないわよ」
少しだけ考えて——
「……じゃあ、明日」
「早いなあ」
「文句ある?」
「ないです」
——まだ名前も知らない。
でも。
それでもいいと思えるくらいには。
たぶん、悪くない。




