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強気美人、甘さにも敗北する ~激辛パフェから始まるちょっとチョロい出会い~

作者: 春凪とおる
掲載日:2026/04/07



 ——あのあと。


 連れてこられたカフェは、さっきより静かだった。

 窓の外で、春の光がゆっくり揺れている。


「ここです」

「……まともね」


「基準どうなってるんですか」

「辛くない時点で合格よ」


 席に座る。


「で、何がおすすめ?」

「チーズケーキですね」


「却下」

「なんで」


「甘さで上書きしたいの」

「なるほど」


 男はメニューを見て、指を止めた。


「じゃあ、“白いごほうびショート”とか」

「いいわね、それ」


 即決。


 ——運ばれてきたそれは、やわらかい色をしていた。


「完璧ね」


「さっきも似たようなこと言ってましたよ」

「今回は違うわ」


 一口。


「……」


 ……甘い。


 優しいのに、逃げ場がない。


「……どうです?」


「……優しいわね」

「その顔で?」


 二口目。


「……」


 フォークが止まる。


「無理してません?」

「してない」


「してますよ」

「してない」


 私はゆっくりフォークを置いた。


「……ねえ」

「はい」


「これ、一人で食べる量じゃないと思うの」

「またですか」


「学習してるの」

「してる人は同じミスしないんですよ」


「これは検証よ」

「便利だなあ」


 少し寄せる。


「……選びなさい」

「え、俺が?」


「責任」

「どの」


「さっきから全部」

「雑だなあ」


 ——数分後。


「はい」


 置かれたのは、小さなプリンだった。


「……地味ね」

「安定してます」


 一口。


「……」


 ちょうどいい。

 さっきまでの甘さが、ゆっくりほどけていく。


「……どうです?」

「……悪くないわ」


「素直じゃないなあ」

「素直よ」


 もう一口。


「……ねえ」

「はい?」


「最初から、あなたに任せればよかったわ」

「今さらですね」


「でも、それだと面白くないでしょ」

「まあ、それはそうですね」


 少し笑う。


「……じゃあ」

 私は立ち上がる。


「次は、もう少し難しいのにしましょう」

「また外しにいくんですか」


「違うわ」


 外に出る。

 春の空気が、さっきより少しだけ近い。


「楽しみにいくの」


 男は少し驚いて、笑った。


「……いいですね、それ」

「でしょ?」


「……で、次はいつにします?」

「今決めるの?」


「決めないと逃げそうなので」

「逃げないわよ」


 少しだけ考えて——


「……じゃあ、明日」

「早いなあ」


「文句ある?」

「ないです」


 ——まだ名前も知らない。


 でも。


 それでもいいと思えるくらいには。


 たぶん、悪くない。


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