肉体変化
「つぅ。これは久しぶりに筋肉痛になりそうだな」
巨大樹のてっぺんで空に見えていたダンジョンの天井に向かってスコップを突き立てる。
硬い。
見た目は完全に空だというのに、まるで岩盤にでも突き当たったかのような衝撃が手にくるので脳がバグりそうになる。
それを無視して、一心不乱に体を動かし続ける。
……正直、かなりつらい。
いつもであればダンジョンの壁を掘っていた。
そのための動作を超集中を使って最適化しながら、肉体強化を使って力強く掘り進めることができていた。
だが、今はそれらの経験がほとんど生かせていない。
壁にスコップを突き立てるのと、自分の頭よりも上の天井へとスコップを向けるのは体の使い方がまるで違った。
筋肉が悲鳴を上げる。
感覚的にはこれは絶対に次の日には筋肉痛になるだろうという感じがしている。
それでも、自分の体が慣れていっている感覚もあった。
不思議な感じだが、壊れた筋肉がそれほど間をおかずに超回復してより柔軟でしなやかでありつつ高い出力が出せるものへと置き換わっているような印象を受ける。
まるで、はじめてダンジョンバーを食べたときのようだ。
ダンジョン内で穴掘りを初めてしたときには筋肉痛にもなったし、すぐに疲労がたまった。
だが、栄養素が豊富でカロリーもあり、なにより魔力が含まれているダンジョンバーを食べることで僕の体は魔力を取り込み、それに馴染んでいき、より強く、長時間の活動ができるようになった。
あの時と似ているような気がする。
いや、それ以上かもしれない。
いつもとは全く違う体の使い方をして筋肉を酷使し、それを体内にある魔力を使って即座に治しながら最適な肉体へと変わっているような気がした。
だが、そんな魔力があっただろうか?
もしかして、白龍の尻尾か?
スーちゃんは白龍の尻尾を食べたことでその体つきが劇的に変化した。
可変ではあるけれどそれまでと比べてもものすごく大きな体になったし、色も透明に変わった。
もしかすると、白龍の尻尾に含まれていた白龍の魔力を食べたことで変化が起きたといえないだろうか?
であれば、同じものを食べた僕の肉体にも白龍の魔力が取り込まれていた可能性は十分にあり得る。
だが、僕の肉体はそこまで劇的な変化というのはしていない。
鏡がないからわからないけれど、少なくとも巨人のように大きな体に変化したとかはないと思う。
しかし、その変化は遅れて現れた。
いつもとは違う天井に向かってスコップを突き上げて穴を掘るという作業により、僕の体は疲労して体内の白龍の魔力に反応し始めた。
そんなことがあるのかな?
あったとしても、これでいいんだろうか?
天井に向かってスコップを突き立てるために合わせた肉体変化が訪れないだろうか。
肩や腕だけが異様に太い、いびつな体になってしまわないだろうか。
そんな心配が僕の頭に浮かぶ。
だが、そんなことを気にしても仕方がない。
今僕が気にすべきなのは、ダンジョンを脱出できるかどうかだ。
天井を穴掘りしてそれが達成できるかは未知数だが、可能性がわずかでもあるのであればやらない理由がない。
ましてや、ダンジョンから一生出られないことを考えたら、多少変な筋肉の付き方をした肉体になっても別にいいじゃないか。
そう考えた僕はひたすらダンジョンの天井を掘り続けた。
疲れたら、鞄に入れていた白龍の尻尾肉をちょっとずつ齧りながらも、ずっとその作業をし続け、少しずつ肉体の変化も進んでいった。
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