軍手の消耗
「破けちゃったな」
ダンジョンの壁殴りを二日続けて行った。
拳に痛みはあれども無茶苦茶に痛いというわけではなく、我慢できるという程度だったので今日も殴り続けた。
不思議なことに、しばらくダンジョンの壁を殴っていると日常の嫌なことが頭から消える。
何も考えず、ただ拳を振るうだけになる。
痛みも途中からはあんまり気にならなくなったくらいだ。
だが、そろそろやめようかと考え始めたころになって、僕は自分の手に異変が起きていることに気が付いた。
軍手が破けている。
重ねた軍手の一番上の部分だけだが、何度も何度も壁を殴っていたからか破けてぼろぼろになっていた。
一番上に重ねていた軍手が、ぱっくりと裂けている。
繊維がほつれ、拳の形に擦り切れていた。
……どうしよう。
この軍手は家にあったもので、多分安物だと思う。
正確な値段は知らない。
一袋にたくさん入っていたからそんなに高いものではないはずだ。
だけど、いくら安いといってもただじゃない。
たった二日で軍手が一枚破れてしまった。
この調子ではもう何回か同じようにダンジョンでの壁殴りをしたら、持っている軍手はすべてびりびりに破れてなくなってしまうかもしれない。
家にはまだ他にも軍手はあると思うけど、大丈夫かな?
家にある軍手を全部僕が使い切るくらいにボロボロにしてしまったら、また母さんがなにか言ってくるかもしれない。
それを想像するだけでも嫌だ。
せっかくストレス発散のためにやっているのに、またストレスを感じてしまうだろう。
けど、だからといって素手で壁を殴るのはさすがに無理だと思う。
指ぬきグローブの上から軍手まで重ねているのに、殴り終わったらさすがに拳に痛みが出ているわけだしね。
「おう。今日はもう終わりか、坊主。つっても、もう外が暗くなってきているからな。気を付けて帰れよ。……って、どうした? なにか考え事か?」
思わぬ軍手の消耗について考えていたからか、いつの間にか出入り口まで来ていたことに、僕は気づいていなかった。
そして、そこで急に声をかけられてビクッと驚いてしまう。
そこにいたのはダンジョンを監視しているおじさんだ。
おじさんはダンジョンから出てきた僕が何か考えながら歩いているのを見て、そんなことを聞いてくる。
「ダンジョンの壁を殴ってたら手袋がぼろぼろになっちゃった」
「ん? ああ、本当だな。まあ、そりゃあそうだろう。つーか、どんだけ壁を殴ったんだ? これはもう使えないだろうから、新しいのを買うしかないだろうな」
「ぼくんちはお小遣いに厳しいんだよね。何回も手袋を買ったらお母さんに怒られるかもしれないんだ」
「ああー、子どもだと手袋買うくらいでもそういう悩みがあるのか。じゃあ、自分で稼ぐか? ダンジョンでひと稼ぎして、親からの小遣い以外の金で手袋でもお菓子でも、好きなもんを買えばいいだろ」
「でも、僕、モンスターとは戦ったことないよ?」
「あー、悪い。言い方が悪かったな。探索者みたいにモンスターを倒してってわけじゃねえよ。さすがに俺もそんなことを子どもにやるようにそそのかしたら怒られちまう。そうじゃなくてだな、ダンジョンの壁を掘って、その土を袋に詰めてギルドに持っていけば買い取ってもらえるんだよ。値段はめちゃくちゃ安いけどな」
ダンジョンの土?
あの壁を掘って?
それでお金が貰えるの?
モンスターを倒したり、宝物を手に入れて大金を稼ぐ人がいるっていうのは知っていた。
けど、まさか土を持って帰ってお金が手に入るとは思いもしなかった。
壁を殴るだけだったはずのダンジョンが、急に違うものに見えた。
僕は思わず、身を乗り出していた。
驚きの話を耳にした僕は、その話を詳しく監視員のおじさんから教えてもらうことにした。
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