染み渡る栄養
今日の穴掘りには、二つの目的があった。
ひとつは、効率よく動くこと。
ダンジョンの壁をスコップで掘っていき、土嚢袋に詰めて持ち帰り、換金する。
この流れの中でなるべく無駄な動きを減らして少ない労力で土を運ぼうと考えている。
どういうふうに体を操り、スコップを使うかをショート動画で見た、穴掘り名人のような外国人の動きを参考に真似る。
スコップを壁に当てるときの角度や腕や脚の使い方、体重の掛け方、てこの原理の使い方などをひたすらに模倣した。
もちろん、外国人のやり方というのはあくまでもその人にとっての最適なやり方だ。
僕とは体つきも違えば、使う道具や掘る場所も全然違う。
なので、動きを参考にしつつ、実際に僕が試してみて自分なりにやりやすい方法を探っていくことも忘れない。
そんなふうに効率よく力を発揮できるように頭と体を使いつつ、ダンジョンに存在するらしい魔力を僕も使えないかを試していく。
ダンジョン内には魔力なるものがあるらしく、その魔力は人間も使うことができる。
そして人間が魔力を使うことで肉体を強化し、熟練の探索者であれば超人的な動きも可能になるのだそうだ。
ただ、僕がみていたのは基本的には筋トレ界隈のショート動画が多かった。
最近は筋トレ界隈では探索者ではないのに、自分の筋肉を育てたいがためにダンジョンに入り、ダンジョン内で筋トレをする人がひそかに増えていて、そういう人たちは魔力を使っていつも以上に力を出せるように頑張っているというものだった。
つまり、なにが言いたいかというと筋トレ界隈の人たちは筋肉の育て方については非常に詳しいが、魔力の扱いは別にプロ並みの知識を持っているわけではないということだ。
なんかダンジョンの中でダンジョンバーを食べながら筋トレしていたらいつもよりも重い負荷で力を発揮できたから多分今のは魔力を使って強化できていたんだろう、みたいなあやふやな感覚論ばかりだった。
正直、参考になるのかどうかも怪しい。
そのため、僕はスコップで壁を掘りつつ、自分の体を魔力で強化できないかをあれこれ試しているのだけれど、具体的にどうすればいいのかは全然わからない。
手探りでやるしかない。
これがやっぱり大変だ。
答えがわからない中で試すのは、自分が正解に近づいているのかどうかも確信を持てないのでつらい。
探索者の人はどうやって魔力の扱いに慣れていくんだろうか。
魔物を倒すのが一番の近道なのかな?
そんなことを考えながら、一時間ほど掘り続けて、少し疲れてきたので補給もかねてダンジョンバーを齧る。
やっぱりこれすごいよな。
一本丸々ではなく、少し齧っただけなのに、ダンジョンバーから自分の体に栄養が染み渡るような感じ体の奥まで栄養が広がっていくような感覚がして、疲れが無くなるような気がする。
多分、このダンジョンバーの成分の中にはダンジョンで採れる薬草とかも入っているからなんだろうな。
ダンジョンの中では薬草が手に入ることがあるらしく、その薬草は体の傷を治したり、疲労を回復する効果があるらしい。
ダンジョンバーはただのカロリーとタンパク質の詰め合わせというわけではなく、そういう薬草成分が入っているからこそ活動継続時間を伸ばしてくれるんだろう。
「っていうか、もしかしてこの感覚が魔力由来なのかな?」
そこでふと思ったこと。
それは、いくら何でも食べてすぐ体の疲れが減るのはおかしいのではないかということ。
いくらすごい薬があったとしても、そこまですぐに効果を発揮するものではないと思う。
だけど、このダンジョンバーは疲れた状態で食べると体に栄養が染み渡るような感じがして疲れが減ったり無くなったりする。
もしかすると、これは僕の体がダンジョンバーから魔力を吸収している感覚なんじゃないか。
ショート動画ではそういう話は見かけなかったけど、なんとなくそんな気がする。
まあ、違ったら違ったで別にいいか。
そう思った僕は、自分の体に行き渡る感覚がするダンジョンバーの栄養こそが魔力なのではないかと考えて、その力を、うまく扱えないか試してみることにした。
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