エネルギー補給
体中の筋肉が悲鳴を上げている。
これ以上は無理だ、力が出ない、諦めろ。
筋肉たちはそんなふうに僕へとメッセージを伝えてきている――そんな気がする。
スコップをダンジョンの壁に差し込み、体重をかけて掘り返す。
言葉にすれば簡単な作業だ。
それなのに、今の僕には恐ろしい苦行のように感じる。
わずかな休憩の最中にも、「なぜ僕はこんなことをしているんだろう」と、そんな疑問が頭に浮かぶ。
スコップを壁に突き立てる。
……重い。
腕が、震える。
「くそ……」
まだ、それほど掘り進めているわけではない。
それだけで息が上がった。
だけど、同時にこの苦行は楽しくもあった。
ダンジョン内を通るほかの探索者は僕のことを奇異の目で見てはくるけれど、基本的にはスルーして通り過ぎ、話しかけてくる人はほとんどいない。
誰のことも気にせず、自分がやりたいことをもくもくとこなせる。
これは、自分の家にいたらできないことだ。
だって、いつもお母さんがああだこうだと小言を言ってくるのだから。
自分がしたいと思ったことをやり続けることができる喜び。
それと同時に、自分の体を操る面白さにも気づいた。
今、僕の体は頭のてっぺんから手や足の先に至るまで、すべてが筋肉痛による悲鳴を上げている。
だけど、悲鳴を上げていない筋肉もある。
そういう、まだ痛みのない筋肉をうまく使えば、今の状態でも時々うまく掘れたなという感じがすることがあった。
一掘り一掘りを、真剣に行う。
どうすれば痛くならないのかを考えながら、体を動かす。
また、利き手利き足である右側ばかりに頼るのではなく、左手左足も使ってスコップをダンジョンの壁へと突き立てる。
左右のバランスを意識する。
痛みのない筋肉を使い、スムーズな動きを心がける。
そして、疲れがたまる前に補給もすることにした。
食べるのは当然、ダンジョンに入る前に買っていたダンジョンバーだ。
ダンジョンに入る前に半分を食べ、今日の作業が終わったらもう半分の残りを食べるつもりでいた。
だが、それを方針転換する。
体を動かしながら、数十分が経ったかなと思ったところで、一度スコップを動かす手を止めて、最初から持ってきていたペットボトルの水で口を湿らせる。
脱水を防ぐための水分補給だ。
そして、その時にダンジョンバーを一口だけ齧る。
ダンジョンバーは栄養価が高すぎる。
食べすぎれば体に害が出る可能性もある。
だから、ちょっとずつ齧るようにして体に取り込むと、徐々に全身に行き渡るような感じがした。
今現在疲れている体にエネルギーが行き渡るような、そんな感じだ。
おかげで、この日は筋肉痛があれども途中でへばることなく、ダンジョンの壁を掘り続けることができた。
今日の戦果は、土嚢袋一袋半。
昨日より確実に増えている。
……悪くない。
学校終わりの数時間で考えたら、なかなかいい感じじゃないだろうか?
きっと売却額も昨日より高くなるはずで、そうすればダンジョンバーが明日も買える。
僕は疲れ切った体でそんなお金の勘定をしながらダンジョンを出ることにした。
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