退魔巫女さんスピッてる!
舗装の割れ目にたまった雨水が、街灯の光を歪ませていた。人気のない道を水たまりを避けながら歩くのは一人の高校生。それが僕、名前は田中サトル。
今日は大作ファンタジーRPGの発売日。ゲーマーである僕としては早く帰ってゲームをダウンロードしなければならない。それは最早使命だ。
この帰り道は、いつもならただの近道だ。大通りではないためこの時間になると足元は暗いがどうってことはない。この辺りは、少なくとも僕の知る限り、治安がいいはずだった。
だが今夜はやけに空気が重い。まるで靴音が一歩遅れて返ってくるかのように。
背後で、何かが鳴いた。
振り向く前に、影が伸びた。路地の奥から滲み出るように現れたそれは、形の無い闇のようだった。
非現実的な光景だ。喉が張り付く、足が言うことを聞かない。
「あ……な、何…?」
次の瞬間、無数に伸びた闇が僕の身体に纏わりついた。振り払っても、振り払っても、正体不明の闇はより深く、よりきつく巻き付いてくる。痛い、熱い、息ができない。
「だ……誰か、たすけ…」
意識が遠のく、景色が暗くなっていく。
次の瞬間、鈴の音がした。
闇に線を引くように、澄んだ音が鳴り響く。風が走り、影が悲鳴を上げた。薄れる視界に確かに見えたのは鮮やかな朱と白だ。誰かが、確かな足取りで前に出る。
彼女は、そこにいた。
長い髪が風を受けて揺れる。手にした札が光を孕み、妖魔は一歩も近づけなかった。
短い祝詞。静かな踏み込み。刹那、闇は音もなく散り、路地は元の静けさを取り戻した。
満月が、彼女の背後に据えられている。銀色の円が、世界の輪郭をくっきりと縁取った。
彼女は振り返る。目が合った。夜の深さと同じ色の瞳が、月のように大きく、僕を測るように見つめていた。
「君、怪我はない?」
声は柔らかく、確かだ。ようやく戻ってきた呼吸と一緒に、胸の奥で何かがほどける。僕は首を横に振る。
彼女は小さく頷き、僕のもとにゆっくりと歩み寄った。
「君、災難だったね」
やはり、綺麗な人だ。歳は僕と同じくらいに見えるのに、その態度と気品はずっと大人びている。
「あ、ありがとうございます。助けて、くれたんですよね?」
「礼には及ばないよ。妖魔を打ち払うのは私の御役目だからね」
「そ、そうだ!さっきの黒い影みたいな奴!あれは一体何なんですか!」
安心したところで手首を抑える。さっき影に掴まれた場所、まだ感覚が残っている。あれは決して幻などではなかった。
「あれは妖魔。闇から人を欺き、喰らうモノ。それを倒すのが私のような退魔巫女ってわけ」
リンと、澄んだ鈴の音が鳴る。
「私は退魔巫女のサクラ。よろしくね?」
「さ、サクラさん!助けてくださりありがとうございました!僕はサトル!田中サトルです!」
背筋を伸ばし、深くお辞儀をする。しかし、まるでゲームやラノベのようだ。本当に妖魔やそれを倒す巫女さんが存在するなんて。
「それにしてもサトル君、本当に身体に異常はないの?」
「は、はい!確かにあの妖魔に掴まれた部分は少し痛かったですけど、全然平気です!」
「……驚いた。一般人が妖魔に触れられたら、大抵は物凄い霊障が残るはずなのに……本当に何もない」
「それは、凄いことなんですか……?」
「ええ、もしかしたら貴方、天才的な才能があるのかも……」
「才能!?それってサクラさんみたいな……」
「ええ、退魔師の才能が。それも天才的なね」
つい、前のめりでワクワクしてしまう。ファンタジーの世界が実際に存在しただけではなくて、自分にもその才能があるのかもしれない。ライトノベルやゲームの世界に憧れたサトルにとってそれは今すぐ飛びつきたくなるほどのチャンスだった。
サクラは凛とした表情でサトルに手を差し伸べる。
「サトル君、私と一緒にこの闇から、世界を守ってくれない?」
風にたなびく黒髪が月明かりに照らされる。陶磁のような美しい手が、僕の前に届く。
「僕がお役に立てるなら、是非とも」
その手を壊さないように、だが力強く、その手を取る。きっと今日から人生が変わる。月明かりの元、僕はそう思った。
手を握り数十秒、サクラは目を瞑り、無言でサトルの手を握り続けている。
「さ、サクラさん?一体これはいつまで……?」
サトルは健全な男子高校生。絶世の美女であるサクラに、これほど柔らかな手に包まれ続ければ恥ずかしくもなってしまう。だがサクラはその声に反応せず、そして更に数十秒後、やっと口を開いた。
「ごめんね、貴方の『波動』を図っていたの」
「は、波動……」
なにやらそれっぽい言葉にワクワクするサトル。自分の身体にもそんなものが流れているのか。
「貴方の妖魔への抵抗力は天才的だけれど、それだけで妖魔に対抗するには足りないわ。妖魔に攻撃を通すためにはこの波動が必要なの。感じる?」
サクラは手を優しく握る。ドキドキする。感じる、のかもしれないがそれよりずっとサクラさんの手の温もりを感じてしまう。
「感じる…気がっ…します!」
「うーん、まだ波動に慣れていないのね。大丈夫、すぐに慣れるわ。これを飲んで」
サクラさんが懐から取り出したのはただのペットボトルに見えた。促されるままに僕はそれを飲む。だが、ただの水だ。
「サクラさん、これって?」
「波動水」
「波動水」
波動水だった。
「特別な勾玉でこの水を叩くの。そうすると波動が水に伝わってエネルギーを記憶するのよ」
「は、はぁ」
もう一口飲んでみる。なるほどこれが波動水。退魔師の世界にはこんなものがあるのか。
「それにもう一つ大事なことがあるわ。ちょっと失礼…身体触るわね」
「あっ、ちょっと、あっ」
サクラさんは急に僕のお尻の辺り、尾骨を触る。そしてそのまま指先で背骨をなぞり、背中、首となぞっていく。
「あっ、サクラさんこれは一体…」
「チャクラを見ているの」
「チャクラを」
「ええ」
チャクラを見られていた。
「凄い、第四チャクラまで綺麗に流れている。大丈夫、この先はこれから開いていけばいいわ」
しかも凄いらしかった。うん、チャクラ。退魔師にはそんなものがあるのか。まあ、忍者もチャクラを使うし退魔師だって使うのかもしれない。ヨガとかでも聞くし、チャクラ。
「あとこれも渡しておくわね。きっと、貴方の役に立つはずだから」
手渡されたのはピラミッド型の物体。透明な物体の中に金属片のようなものが入っている。月明かりに照らされてそれはとても神秘的に見えた。
「サクラさん、これは一体?」
「オルゴナイトよ」
「オルゴナイト」
「ええ」
オルゴナイトだった。触ってみると手触りはレジンだ。100均で材料が集まりそうである。
「無機物と有機物が組み合わさることでエネルギーが循環するの。中の水晶がそれを整えて放出してくれるわ」
「放出すると、どうなるんですか?」
「整うわ、身体が」
「身体が」
「ええ」
整うらしかった。退魔師なんだし、身体なんかそりゃ整ってたほうがいいに決まっている、間違いない。
間違いないのだが、僕の中に言葉に出来ない疑惑が生まれ始めた。いや、言葉に出来ないわけじゃない。なんならもう喉から出かかっている。
「サクラさん、あの、1つだけ良いですか?」
「ええ、何でも答えるわ。新たな仲間の貴方に隠し事はなしよ」
「サクラさん。なんか、スピッてませんか?」
「スピ……?それはどういう意味かしら……?」
サクラさんは頬に指を当て首を傾げている。どうやら本当に意味がわかっていないようだ。
「いや、何でも無いです!突然失礼しました!」
まさか、そんな訳はないだろう。何より自分は見たじゃないか。この世のものとは絶対に思えない妖魔、それを打ち倒すサクラさんの姿を。僕にはあれが嘘や幻にはどうしても思えない。だからきっと波動やチャクラ、オルゴナイトにも退魔師として必要なことが詰まっているのだ。そうに決まっている。僕は波動水を飲み干し、オルゴナイトを握る。自分の身体に流れるチャクラに集中する。大丈夫、僕は退魔師になれる!
「それはそうと妖魔から身を守るために毎日マコモ湯を」
「やっぱりスピッてんじゃねぇか!!!!!!!!!!!」
もう無理だった。
「サトル君、一体どうしたの!?まさかまだ妖魔が」
「違う!違うんだよ!なんか怖いんだよさっきから!」
「それは、怖いに決まってるよね……。突然こんな別世界の出来事に巻き込まれて」
「違うんだよ!むしろそこにはワクワク感すら感じていたよ!怪異とかじゃない別の怖さがあるんだよ!!」
「大丈夫、私が守るから」
「守る側がちょっとスピッてて怖いんだよ!」
ゼーゼーと肩で息をしながらまくし立てる。相手は命の恩人なのだが、こう言わざるを得なかった。
「さっきからサトルくん、すぴすぴって言ってるけど、そもそもそれって何のことを言ってるの?」
サクラさんは僕の豹変に驚き困惑している。困惑したいのはこっちなのだが、どうやら本当に理解していないようだ。
「えっと、何といいますか、スピっていうのはスピリチュアルの略語でして。科学的根拠のないことに傾倒してしまう事とか人とかのことを言いまして……」
「サトル君、世の中には科学じゃ証明できないことがいっぱいあるんだよ。サトル君だって今体験したばかりでしょ?」
「そうなんだよなぁ!!今いたんだよなぁ!妖魔!!!」
駄目だ、勝てない。世の中不思議なことがあるのは本当らしい。ただ、僕が想像していた形とは違うということだろうか。
「サトル君、気持ちはわかるけど落ち着いて。妖魔は人間の恐怖心や迷いを好むの。まずは心を静かに整えることが大切。深呼吸して。ほら、吸って、吐いて」
表現は不思議だが、サクラさんが僕のことを本気で心配してくれているのは伝わってくる。ずっとこの人は真剣で、真剣に僕のことを助けてくれた。それはきっと事実なのだ。そこだけは信用しなくてはいけない。
「は、はい。スーッ、ハーッ。スーッ、ハーッ」
僕の呼吸に合わせて、サクラさんは背中を擦ってくれる。ほんのりと体温が伝わる。自然なリズムだ、心が落ち着いてくるような気がする。
「よく覚えて。これが波動の呼吸」
「やっぱ波動じゃねぇか!!!!!」
思わず飛び退いた。油断も隙もあったものじゃない。
「ちょっと、突然動かないでね!」
僕が急に動いたからだろうか、サクラさんの手から何かが滑り落ちた。コロコロと僕の足元に転がってくる。
勾玉だ。
「怖いッ!!!文脈が怖いッ!!!!」
本来巫女と勾玉の組み合わせはよくあるものだ。漫画やゲームで何度も見たことがある。数十分前までの僕であれば大喜びしていた組み合わせだ。この短期間で僕の中のファンタジーとスピリチュアルがごちゃごちゃに混ざりつつある。恐ろしい。
「サクラさん、この勾玉って波動を発したりするやつですか?」
「……分かってきたね、サトル君」
サクラさんはニヤリと僕の顔を覗き込んだ。
「ステージ、上がってきてるよ」
「上がりたくない!!!」
断じて波動を感じた訳では無い。ただもうそうとしか考えられなくなっただけだ。
「……サトル君」
「な、なんですか?」
「疑う気持ちは大事だよ。でもね」
サクラさんは真面目な顔で続ける。 「疑いすぎると、波動が閉じるの」
「すごい納得したくないよぅ……」
頭を抱えていると一瞬、沈黙が落ちた。虫の声がやけに大きい。
「サトル君、気をつけて。また妖魔が近づいてきてる」
サクラさんは声を潜めながら僕の手を引く。その目は真剣だ。こんな調子の僕ではあるがさっきの妖魔との接触は本当に恐ろしいものだった。
確かに背中が冷えるような感覚がある。じっとりとした存在感を感じてしまう。波動のことは分からないが、先程の闇のような存在感だ。
「今日みたいな満月の日はエネルギーが満ちるけど、余計なものも満ちてしまうの」
「余計なものって?」
「余計なものよ」
「そっかぁ……」
もうこれ以上聞かなかった。
「ククク……これは珍しい。退魔巫女とガキが一匹」
「だ、誰ぇ!?」
暗闇から溶け出るように現れた人影、だがその顔は獰猛な獣のようだった。
「人狼ッ…!気をつけて、強力な妖魔よ!」
「人狼!」
人狼だ。月の光で変身する化物。
「ただの人狼と侮って貰っては困るぜ。俺はあの『フェンリル』の血族」
「フェンリル!!」
「固有魔術、その一端を見せてやろう」
「固有魔術!!!」
凄い、僕を喜ばせるような単語が洪水のように流れ始める。
「サトル君、後ろに下がっていなさい」
「うんわかったよサクラさん、周りに被害が出ない程度に、でもゆっくりと戦ってくれると嬉しいな!」
「ええ、すぐに終わらせるわ」
はためく黒髪と紅白の装束。一歩踏み出すたびに凛とした音色の鈴が鳴る。
「来なさい、人狼!」
「喰らえ、固有魔術『神殺し』!」
口から溢れるのは赤黒い火球。火球は物凄い速度で突き進み、サクラさんに直撃した。
「さ、サクラさん!!!」
物凄い衝撃と煙だ。視界が全く晴れない。これでは僕の命の恩人であるサクラさんは……。
「ふふ、この程度どうってこと無いわ」
「さ、サクラさん!!!」
煙が晴れた先には堂々と、そして凛として佇むサクラさんの姿があった。所々服が焦げているが、身体は無傷そのものだ。
「ククク、流石にやりおる。普通の退魔師なら肌が焼け爛れているだろうに」
「私を普通の退魔師と侮ったのが間違いね。私は特別なベールに守られているの」
「特別なベール!?サクラさん、それは一体?」
「マコモ湯よ」
「スピってんじゃねぇか!!!!!!」
「毎日マコモ湯に入っている私の肌は自然治癒力が段違い。そんな炎じゃ火傷も負わないわ」
「嫌過ぎる!嫌過ぎるよ!!」
「ククク、流石は退魔巫女と言ったところか。……おい、そこの小僧!」
「は、はい、僕ですか!?」
急に妖魔である人狼から声をかけられた。思わず返事をしてしまう。
「小僧、貴様様子を見ているとまだその退魔巫女の仲間、というわけではないな?」
「一瞬仲間になろうと思いましたが踏みとどまりました」
「ならば俺と共に来ないか?お前にはただならぬ魔術の才能が見える」
「ま、魔術の才能!?」
僕にそんな才能があるなんて。
「サトル君!妖魔の言葉に耳を貸しちゃ駄目!彼らは魂のランクが下の存在よ!!」
藻の臭いがする女が何か言っている。
「サクラさん、今までありがとうございました。僕は人狼さんと一緒に魔術を極めてきます。また何かあったら会いましょう」
「待ってサトル君!」
「僕の意志は固いです。魔術、極めたいです!」
「一緒にマコモ湯入ってあげるから!」
「ヌゥッ……」
無意識にサクラさんの身体に目が行ってしまう。白磁のように白くしなやかな身体。主張する胸、尻。高校生男子としては興味を持たざるを得ない、混浴。
「でもマコモ湯……」
「これ以上サトル君を惑わせないで!喰らえ人狼!チャクラエネルギーシール!!」
突如としてサクラさんは人狼に向けて駆け出し、人狼の身体に何かを貼り付けた。貼り付けられているのは……見たことがないおじさんがプリントされたシールだ。
「な、なにぃ……バカなぁぁぁぁ!!!」
突如爆発、霧散する人狼。
「……せめて安らかに眠りなさい、人狼!」
満月が、彼女の背後に据えられている。銀色の円が、世界の輪郭をくっきりと縁取った。
沈黙。虫の声。遠くの車の音。
「……サクラさん」
「なに?」
「どう考えてもスピッてるのに……効くんですね……」
僕はもう、スピとファンタジーの境目が本格的にわからなくなってきた。
サクラさんは少し困ったように笑う。
「これをスピって呼ぶ人もいるかもしれないね。でも」
真っ直ぐに、こちらを見る。
「妖魔は本物だったでしょう?」
「……本物でした」
「なら、それに対抗する力も、本物だよ」
「……」
「名前が何かなんて、そんなに大事かな?」
そっと、耳元で囁くサクラさん。そのまま彼女は僕を優しく抱きしめた。
「本当はね、ずっと寂しかったんだ。この力は誰にも話したことがないし、信じてくれる人も少ないから」
サクラさんは僕の顔を見ないまま、ぽつぽつと語り始める。
「でもね、今日君と出会えたの。私と同じような力を持ってる男の子。怖がらせてしまったかもしれないけど、本当に嬉しくて」
笑っているような、でも泣いて藻いるような、そんな声で彼女は囁く。
「貴方が一緒にいてくれたら、私、もっと頑張れる気がして。私のわがままなんだけどね」
彼女は何か藻を決意するように息藻を大きく吸い、そし藻て吐き出す。確かめるように一呼吸藻ずつ、一呼吸ずつ。
「私と一緒に戦ってくれな」
「藻の臭いが邪魔過ぎる!!!!!!!!!!!!!」
あの夜から数日間、僕は結局サクラさんに付きまとわれた。ベッドの下に謎の缶を置かれ、よく分からない波動を発するCDを流され、波動水をガブ飲みした。
なにより1番恐ろしかったのは、こんなスピの局地みたいな行為が、軒並み妖魔に効いてしまっていることである。
彼女曰く僕のチャクラが7つ全部開き切る頃には、既に一端の退魔師に、なってしまっていた。
「大変よサトル君!波動や妖魔に触れて刺激を受けたせいか、君は特殊能力が開花しそうになっているわ!」
心底驚いたようにサクラさんは言う。
「本当ですか!?」
特殊能力、散々サクラさんに振り回されてきたがこの4文字には心を踊らさざるを得ない。だが、正直なところ自分の身体に何か変化が起きたようには思えない。
「その特殊能力って、どんな感じで判明したりするんですか?コップに水を入れて葉っぱを浮かべたりとか……?」
「ちょっと待っててね、今ストアでダウンロードしてるから」
「アプリなんだ」
しばらく待っているとサクラさんは僕の方にスマホのカメラを向ける。
「あ、もうちょっと待っててね。広告入っちゃった」
「能力判定するアプリ、広告入るんだ……。しかも左右に動いて+2とか×2とかで仲間増やすタイプのゲームのやつなんだ……」
信頼性があまりにもなさすぎる。30秒ほど待って、ようやくアプリが起動した。
「こ、この能力は………」
彼女が口を開きかけたその時、視界が闇に包まれた。周囲を見渡す、だが、何も見えない。完全に闇に囚われてしまった。
「サトル君!!」
「サクラさん!この闇は!!」
「不味いわサトル君、この一帯で妖魔が大量発生!このままでは街全体が妖魔に包まれてしまう!」
「そ、そんな!サクラさん、どうにか出来ないんですか!」
「今の衝撃で私の力の源だった勾玉が、奪われてしまった。私は戦えない……」
「そんな!」
「でも、貴方なら出来る!能力に覚醒した、貴方なら!!!」
絞り出すような声で彼女は僕に声を送っている。そうだ、彼女はいつだって真剣だった。言動はおかしかったが、僕を守ろうとしている、僕に期待をしてくれている。それだけは痛いほど、伝わってきている。
「最後に、出来ることはこれしかないけれど、貴方に届けるわ。きっと貴方を守ってくれる最後のアイテム……。どうか、どうか信じて手を伸ばして!サトル君!!」
信じるしかない、僕は、彼女を信じたい。
「サクラさん!!!!手を!!!」
「サトル君!!!受け取って!!!!!」
手に触れるのは細長い箱のようなもの。僕はそれを、力強く掴む!
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
「アルミホイルよ。これで頭を守ってくれるわ」
「やっぱり最後までスピじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
僕の叫びは天高くまで轟き、そして街中に降り注いだ。街に、世界に、僕の声がこだましている。
全身に、感じたことがないような力を感じた。波動ではない、だが、なにかこう充実感のようなものが身体から溢れる。留めていたものが解放されるような、そんな奔流が、僕の身体から流れていた。
街を包もうとしていた妖魔達は次々と霧散していく。これが、僕の力?僕の特殊能力?
残ったのは、街頭と、水たまりと、そして彼女と僕。
「……一体どういうことですか、街から妖魔が消えてしまった」
僕はまだ事情が飲み込めていない。ただ、僕が何かを成し遂げたことだけがわかっていた。
「これが、貴方の特殊能力よ、サトル君」
「これが……?」
「ええ、貴方はずっとスピリチュアルを否定し続けてきた。それによって開花した能力。」
「超常を否定する力。無効化能力よ」
「……」
「んんんんんんんんんそれっぽい!!!!!!!!」




