深く、内省
第一層:
正面に蝋燭が揺れていた。ゆらり、ゆらり、もう一度ゆらり、と勘定していくうち、その小さくも確かな灯に見惚れていた。しかしそれは、周囲が暗闇であるからこそ映えて見えるものだった。スイッチを押して、天井の照明を付ければ、部屋の隅で座り込んだ女が寂しそうに言った。
「なんだか、その蝋燭には惹かれないね」
暗いときに見た蝋燭と、今明るい状態で見た蝋燭では、何故か魅力に差があるらしい。僕らは何度も照明を付けたり、消したりしてその差を確かめた。それで、ひとつ決心がついたように目をよく開いて女が言った。
「今、本当に私が欲しいものが分かったかもしれない」
「じゃあ、それは何?」
「......横に並んで、ずっと寄り添ってくれる人」
僕はその言葉を反芻して、それから女の方を見た。女は変わらず蝋燭の火を見ていた。僕の伸ばした手は、女の頭を撫でようとしたものの、それには及ばず結局肩にその手を置いた。
「その人が見つかるまでは、僕がその代わりになるから」
女は訝しげに言った。
「気持ち悪いこと言わないで」
第二層:
「お前は何も理解できない。お前は何も救えない。お前は何もかも傷つける。お前は全てを傷つけられる。お前は過ちを繰り返す。お前は何も学ばない。お前は愚か者だ。お前は鈍い。お前は依存する。お前は迷惑をかける。お前は怠ける。お前は肝心なところで何も成さない。お前は能力が低い。その割にプライドが高い。お前は醜悪だ。容姿も悪ければ中身も粗悪。」
これが、もう一人の私が私に言ったことです。
第三層:
死にはしませんがね、生きようともしていないのです。理由は特にはないのです。特にはないからこそでありましょうかね。何か、希望のひとつでも見出すことができていれば、あるいはこんなことにならなかったのでしょうか。しかしそれは不可能であると思います。この現世で、それは不可能なのです。人生というものが、かくも難しいことだとは、想像もつきませんでした。ええ、そうです。これは人生を舐め腐って、胡坐をかいていた、怠惰の私が今もなお受けている禊の最中であるのです。




