98.意外な才能が芽吹いていく
アウグストは部下を鍛えながら、騎士団の編成に悩んでいた。王城で与えた役割に一部変更を加えて使うか、まったく新しく編成するべきか。膝に甥ラファエルを乗せて、芝生の上でリストを眺める。
「これ、騎士団の人だね」
「ああ、そうだな」
「この人、たぶん隊長より補佐のほうが向いているよ」
甥っ子の指摘に、アウグストは反論なくそのまま書き込む。ヴィリが興味深そうに後ろから覗き込んだ。あの人はこっち、この人はあっち。ラファエルは淡々と人を仕分けていく。厳しい走り込みでヘタレる部下を見ながら、適性を口にした。
「どうしてそう思った?」
「見てたらわかるよ」
何でもないことのように返され、アウグストは唸った。斜め後ろで目を丸くしている副官の様子に、どうやら問題なさそうだと判断する。将来、一族を率いるラファエルが優秀なのはいいことだ。人を使う立場なのだから、部下の適性を判断する能力は必須だった。
「助かった、また次も頼む」
「うん」
頭をぐりぐりと乱暴に撫でれば、ラファエルは嬉しそうに笑った。頑張り屋の姉と、天才肌の弟か。走っていくラファエルを見送り、アウグストは空を仰ぎ見る。ロイスナー公国の未来は明るそうだ。
「驚きましたね、人の適性なんて難しいでしょうに」
感心するヴィリは、手元のリストに追記された内容を確認しながら呟いた。
「ボス! 不審な入国者を見つけました」
「よし、何人だ?」
「五十人くらいです!」
「は?」
飛び込んだ伝令に、アウグストが低い声で尋ね返す。びくりと肩を揺らした伝令は、それでも「五十人前後です」と繰り返した。聞き間違いではなかったようだ。
「訓練やめ! すぐに出る、準備しろ」
部下に声を掛け、自らも大股で歩き出す。その後ろ姿を見送り、ヴィリが溜め息をついた。残された伝令に詳細を聞き、商人の一団らしいと判断する。不審と表現された理由は、商品ではなく家財を運んできたからだ。
家具を売る商人もいるが、彼らは違うらしい。数か国を渡り歩く商会のほとんどが、本部をカペル共和国に置く。大陸のほぼ中心に位置すること、王政ではなく財産が保障されていること。どの国もカペル共和国の商人を拒むことはない。
中立な国から、家財道具一式を担いだ商人が逃げてきた? それも商会ごと……? 明らかにおかしかった。かつてアードラー王国の門番を務めた男の判断を褒めたヴィリは、伝令に休むよう伝える。
「時間が戻ってから厄介事ばかりですが、悪いほうへ進むばかりの『前回』よりマシでしょうね」
なんだかんだ楽しんでいる。ロイスナーが独立したと聞いた時のわくわくを思い出しながら、ヴィリはアウグストの背中を追った。




