95.情報入手先の秘匿は厳守
「だからぁ、入手経路は言えねえ。聞き出そうとしても無駄だぞ」
大臣達の前に連れてこられたジーモンは、溜め息交じりに拒否を表明した。そこに宰相ヤンが加わり、グスタフ王まで顔を出したが……結論は変わらない。身内である以上に、情報屋を売れば次はないからだ。迷惑をかけないのが、情報を得る対価の一つでもあった。
「専門家から買った。それ以上は言わねえが……何がそんなに問題なんだ?」
首を傾げるジーモンの呟きに、数人の大臣が目を逸らした。出所がきな臭いのか? 無言で反応を窺うジーモンの姿に、宰相ヤンが口を開いた。
「あのリストは、殺されたボルマン子爵の手筆でしょう。彼が毒殺された話は聞いていますね?」
ジーモンは静かに首を縦に振った。財務大臣だった彼が死んだ話は聞いている。毒殺だと断定されたことも、伝え聞いていた。前騎士団長のアウグストは、必要な情報を部下に出し惜しむ人ではなかったからだ。
「彼が亡くなった夜、最後まで部屋で書いていたのが……このリストだと思われます」
「ってことは、これは殺人犯のリストか?」
「いえ、どちらかといえば」
ヤンが言葉を切ったタイミングで、グスタフ王が後を引き継いだ。
「我々を裏切った者をあぶり出そうとしたのだろう。あの時点で、毒殺の危険を察知した者はいなかった」
なるほど、とジーモンは頷いた。道理でリストを届けただけで、重鎮が勢揃いするわけだ。厄介なリストを発見したな、あいつ。バルバラを思い浮かべ、溜め息を吐く。
「もう入手経路は問わぬ。届けてくれたことに感謝する」
「え? あ、ちょ!」
それ、俺が買ったんですけど? タダで持ってかれるんっすか?! そんな文句が喉の奥に張り付いたジーモンは、後ろからぽんと肩を叩かれた。
「安心してください、買い取ります」
宰相ヤンの確約に、ほっと胸を撫でおろした。同時に、過去に騎士団長を押し付けられなくてよかったと思う。隊長は押し付けられたが、団長になっていたら取り込まれてしまう。アードラー王国で骨をうずめる覚悟を決めたとはいえ、楽をして老後を迎えたいものだ。心からそう願った。
「ああ、そうそう。また何か入手したら連絡してください」
ヤンの言葉は丁寧でお願いのような響きなのに、命令として届いた。断れば老後の蓄えをする猶予もなく、罪人にされそうだ。
「わかりやした」
下町の言葉で応じたのは、ジーモンにとってせめてもの抵抗だった。騎士として勤めた過去、きちんとした言葉遣いは身に着けた。だが、どこまでも部外者で雇われ者なのだ。そう示して距離を置く。政権争いや権力闘争に巻き込まれることがないように。




