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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


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84.誰も彼も疑わしい

 国内を流通する日用品や食料の流通が滞っている。主食である麦は自国で賄えるが、肉や魚が徐々に値上がりしていた。混乱に乗じた値上げかと調査するも、単に入荷量が減っただけ。乳製品ならば、ロイスナー領に頼っていたため、理由がわかる。


 しかし乳製品は問題なく入荷していた。足りないのは肉、魚、香辛料だ。野菜も自国の生産で足りる。輸入ルートはすべて、ウテシュ王国を示した。


「こんなにわかりやすい敵対行為をするでしょうか」


 アードラー王国宰相ヤンが、市場調査の結果を前に呟く。ウテシュ国王は多少強引な面はあるが、政に関しては堅実と評価してきた。自国内の災害規模を抑えるための公共工事、生産量安定のための施策。先代から続けてきた孤児の保護もその一つだ。


 有能で堅実、真っすぐな人柄が評価されている。にもかかわらず、ここ数か月の輸出制限は宣戦布告のように感じられた。


「あの男が戦を仕掛けるとは思えん」


 グスタフ王も渋い顔で言い切った。加えて、王国内でも不審な動きを察知している。一部の貴族が、勝手に他国との関係を歪めているのだ。カペル共和国との貿易がいい例だろう。ロイスナー公国は今までと変わりない価格と量を輸出し、我が国が輸入している。


 国を通過してカペル共和国へ輸出するはずが、価格を吊り上げる貴族が現れた。こたびの騒動を理由にしているが、国での承認を得ていない。その上、差額をどこかへ納めているらしい。となれば、追及するしかあるまい。


「大臣で動ける者を派遣してくれ。騎士団の護衛をつけるのだぞ」


「承知いたしました、陛下」


 新たに結成した騎士団は平民が多い。若さと血の気の多さを持て余した若者が、何人も志願した。厳しい訓練を課し、礼儀作法を叩き込む。まだ未熟ながら、ようやく使命感が生まれつつあった。仲間同士の連帯はあとすこし。


 執務室を出る宰相を見送り、グスタフは広げたままの地図を眺めた。ウテシュ王国が裏で動いたのなら、カペル共和国を脅すつもりか? ウテシュ王国とアードラー王国の間には、カペル共和国の領地が細長く挟まっていた。まるで隔てる壁のようだ。


 カペル共和国は王政ではないため、他国との関係やバランスを重視する。自ら宣戦布告することはないが、万が一にも侵略されれば国民が一丸となって抵抗するはずだ。ならば、ウテシュ王国が領地を侵略する可能性は低い。


 自国の貴族がウテシュ王国に協力しているなら、爵位はく奪や領地と財産の没収も視野に入る。『前回』のやり直しは、こういった裏事情も含まれるのか。額を押さえながら、グスタフは呻いた。


「女神アルティナ様……あなた様の慧眼をお貸しいただきたい……」


 不遜ながら漏れた本音に、溜め息が落ちた。

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