80.鍛え直しだ、たるんどる!
顔がそっくりな双子を初めて見たため、興味はそそられた。だがそれ以上に、近づいたら危ないと本能が訴える。あまり親しくならないほうがいいかもしれない。ガブリエルはそう考え、弟の手を握った。守るつもりだが、それはラファエルも同じだ。
「お姉様は僕が守るから」
落ちていた棒を拾って、しっかり握った。睨みつけるラファエルだが、双子はそれどころではない。剣術の稽古は最低限こなしていたが、脛を殴られた経験はなかった。王子様らしい戦い方を教える師範が、いきなり脛を攻撃するはずもない。
初めての実戦に「やべぇ」「いてぇ」と呻きながら転がるだけ。騎士達も叩きのめされていた。鎧を着ていたから、遠慮なく鞘で叩いたアウグストである。逆に言えば、装備もない男に一撃でのされる時点で、騎士達は護衛失格だった。
「どうやって入り込んだのか、吐かせてくれ……ああ、生きていればいいぞ?」
「承知いたしました、ボス」
わざと団長という単語を使わず、ヴィリは駆けつけた部下に捕縛を任せる。呻いている騎士の鎧をはぎ、中身だけ地下牢へと運んだ。双子も縛り上げるが……身なりの良さに対応を迷う。
「ん? 子供だしなぁ……護衛がつくくらいの身分だろうから……塔でいいんじゃねえか?」
ロイスナー家の塔は、名前の通りの建物ではない。高い塔をイメージするのは当然だが、全く違う形をしていた。地下と地上二階のごく普通の建物に見える。いや、実物を見れば「ごく普通」が覆るだろう。
円柱状の建造物には窓がない。中央に開いた穴から入る自然光が唯一の光源だった。ロイスナー領でよく作られる菓子、バームクーヘンに似た形をしている。中央の穴は明り取りの役目しか果たさぬ、小さな窓があるのみ。そこからの脱出も不可能だった。
この塔は罪人の牢としてではなく、隔離する病人のために作られた。気が触れた者を閉じ込め、外へ飛び出して転落や獣に襲われる被害を受けぬよう、厳重に管理できる建物だ。地下は埋葬用の墓地を兼ねていた。
「そうですね」
ヴィリは嫌な笑みを浮かべ、騒ぐ双子を連れていくよう命じる。敬礼した部下達が従い、あっという間に林の中は片付いた。
「どうやって入ってきたのか、厳しく調べるとして……」
アウグストは言葉を切ると、息子二人に溜め息を吐いた。やれやれと首を横に振る「失望したぞ」の態度に、カールとケヴィンが顔を歪ませる。
「二人とも鍛え直しだ、たるんどる!」
やっぱりと肩を落とす従兄二人を見て、ガブリエルが口を挟んだ。
「叔父様、あまり厳しくしないでね? 使えなくなっちゃう」
「安心しろ、息子だから二割ほど厳しくするだけだ」
絶望の色を浮かべたカールとケヴィンは、アウグストの後ろを歩き始めた。叔父と手を繋いだガブリエルは、逆の手を握るラファエルを気遣う。俺達を気遣ってほしかった……そんな従兄の声は届かなかった。




