79.仕方ないわ、不審者だもの
騎士を連れた双子が顔を見合わせる。それから無遠慮にガブリエルを指さした。
「コレが、ゼークト王国のお姫様?」
「聞いてたより幼く見えるけど……」
立ち上がってガブリエルを庇う姿勢を取ったカールが、抜いた短剣を構える。屋敷の敷地内ということもあり、長剣を持ってこなかったことが悔やまれる。今後は常に持ち歩くことを決めた彼の隣で、弟ケヴィンが周囲に視線を走らせた。小脇に抱えたラファエルが、しっかりしがみつく。
いざとなれば、二人を逃がして足止めするか。目配せで合図を送りあう二人だが、すぐに肩から力が抜けた。
「誰に許可を得て、ここにいるんだ? あん?」
鞘に収まった長剣を肩に担いだ乱暴な口調の男……アウグストの登場だ。寝起きなのか、髪はぼさぼさで寝癖がついていた。加えて髭も剃っていない。贔屓目に見ても騎士団長ではなかった。
「下男に用はな……ぐふっ」
下男扱いした騎士を、アウグストの剣が叩きのめす。防具を突き抜けたかと思う衝撃で、騎士は膝をついた。鞘を払っていない剣をこん棒扱いし、敵を沈める。後ろから息を切らせて走ってきたヴィリが、抱えた剣を投げた。
片手で受け取ったカールとケヴィンが、鞘を払わずに構える。片手で構えて距離を取りながら、警護対象であるロイスナーの姉弟を背中に庇った。その状態で互いに背を預けるように立ち、隙を見せない。
「まあまあか、剣を忘れたから減点だが」
「それは……まあ、反論できないな」
厳しすぎないかと言いかけ、先ほど反省したことを思い出したカールが苦笑いする。無視された形の双子がきょとんとした顔で見回した。
「違うっぽい」
「ええ? ネロがゼークトのお姫様だって言ったんだろ」
「いや、そうかもと思っただけ」
まったく反省の色も、何をしでかしたかも理解していない双子に、アウグストが厳しい顔で歩み寄った。止めようとする護衛の騎士を、乱暴に鞘で殴り倒す。無造作な動きに見えるが、騎士は避けられずに腹部や肩に受けた。
「すげぇ」
感心するミロの声に緊張感はない。後ろからヴィリが「捕獲ですよ」と叫んだ。振り上げた鞘付き剣で叩いたら、命が危ない。侵入者だとしても、いきなり殺害は問題だと伝えた。わかってると頷いたアウグストが、造作もなく二人を確保する。
双子ならではの連携で左右に走ろうとしたが、その程度の小細工が通用するアウグストではない。筋肉に特化した男は、バネの俊敏さを発揮して双子の足を払った。脛を殴られた二人が呻いて転がり、ガブリエルが飛び出す。
「叔父様、やりすぎよ」
「かなり手加減したぞ? 骨も折っていない」
安心しろと微笑む叔父に、それならいいかとガブリエルも頷いた。なんだかんだ、王妃教育に込められた厳しい内容は、少女を年齢以上に成長させている。敵でなくても不審者なら仕方ない。そう結論付けたガブリエルは、カールの腕にしがみつきながら双子を観察した。




