77.顔を合わせてはいけない姫君
ガブリエルは読書の時間を楽しんでいた。窓辺の長椅子に座り、顔を上げれば庭が広がっている。綺麗に手入れをされた花壇には薔薇を始めとした花が咲き乱れ、その先は芝生、もっと奥になると林があった。手入れの行き届いた林は、屋敷からの見栄えを考えて剪定される。
「いいお天気ね」
「はい、お姉様」
にっこりと笑顔で応じるのは、弟ラファエルだ。ゼークト王国から来た姫君と顔を合わせないよう言われ、二人は一緒に読書を楽しんでいた。ゼークト王国からの迎えがすぐに来るから、数日の我慢だと言われ頷く。
「外へ出たかったけれど、このままでもいい気がしてきたわ」
ガブリエルは庭へ出て、栞に使う押し花の材料を摘みたかった。ただ、先ほど庭にカタリーナ王女がいると聞いて、諦めたのだ。本を閉じて立ち上がったラファエルが、きょろきょろと周囲を見回す。王女の姿がないことを確認し、控えていた侍女に声を掛けた。
「お庭に出てもいいか、アードルフに聞いてくれる?」
「承知いたしました」
扉の外に騎士が控えているため、侍女は応じて家令アードルフの元へ向かった。手順も問題なく、言いつけは守っている。しかし、騒動は勝手にやって来るものだ。特に自分勝手で我が儘な人が絡むと……その影響は強くなった。
「お通しできません」
「なぜ? 私はゼークトの王女なのよ!!」
まさかのカタリーナ王女登場に、扉の外が騒がしくなる。騎士は己の職分を果たすため、毅然と対応していた。驚いたガブリエルが本を閉じる。未来の王妃として厳しく教育された彼女には、信じられない言動だった。あれで一国の王女なの? 驚く姉の様子に、ラファエルは「逃げなきゃ」と焦った。
会わないほうがいい相手が近づいてきたなら、こちらが離れればいい。
「お姉様、こっちです」
「ラエル……そうね」
叱られちゃうわ。口をつきかけた言葉を呑み込んだのは、扉の外の声が癇癪に変わったから。カタリーナが強行突破してくる可能性がある。ガブリエルは弟の手を取り、一緒に窓のガラス扉から庭へ出た。
カタリーナ王女と顔を合わせてはいけない。ならば、彼女が扉の外にいる今、庭へ出れば……。低い花壇は身を隠すのに向かなかった。その先は芝の広場……となれば、奥の林まで逃げよう。子供ならではの考えで走り出す。
林に隠れて、少ししたら戻ればいいわ。ガブリエルに危機感はなかった。ここは父母が守るロイスナー公国で、独立した領地だ。公女となったガブリエルと、未来の公王である弟ラファエルを傷つける者はいない。彼女はそう信じていた。
林に駆け込みしゃがむ。茂みがごそりと揺れて振り返るも、そこにいたのは牛だった。放牧した牛が紛れ込んでいるようだ。ほっとした二人の後ろに、別の影が迫っていることを……知る由もなかった。
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今年も大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたしますペコリ(o_ _)o)) よいお年をお迎えくださいませ




