76.勝手に芽吹く騒動の種
ウテシュ王国には王子が三人いる。嫡子はすでに成人しており、結婚も間近の幸せな時期だ。その下の双子が今回のカタリーナ王女の婚約者候補だった。双子なので、どちらでもいい。父王にそう伝えられ、二人で会ってみて考えると返答した。
直後の連絡で、カタリーナ王女の家出が発覚する。もちろんゼークト王国からの正式な通知ではない。どの国も同じだが、諜報活動は活発だった。何をするにも情報が必要だ。婚約を打診している王族の動きは、もちろん監視対象だった。
ウテシュ王国は承認していないが、公国となったロイスナー領へ向かう王女。双子は後を追う形で、ゼークト王国に入った。だが王宮に立ち寄ることなく、ロイスナー公国方面へ馬首を向ける。
婚約者になる予定のカタリーナ王女を……というより、せっかくだから新しい公国を見てこよう。その程度の軽い気持ちだった。交易で豊かな財を築いた、酪農中心ののんびりした国。かつての公爵領なので、領地はさほど大きくない。双子の知識はそこまで。
「うわぁ! みろよ、ネロ」
「すげぇ、牛がいっぱいだ!」
顔がそっくりな双子は、きらきらした目で周囲を見回す。荷馬車を連れた一行は、騎乗していた。その中で子供の二人は目立っている。声を上げて山の斜面に放牧された牛を指さした。まだ十七歳になったばかり、新しい景色に夢中だ。
「ミロ、こっちにはヤギがいるけど」
「ヤギって角があるんだな」
感心しながら街道を逸れることなく走らせる。もう一週間以上旅をしていることもあり、目的地はすぐそこだ。本来ならゼークトの王宮で泊まり、顔合わせをする予定だった。目的の人物がいるからと理由をつけ、行き先を変更したのは双子である。
護衛の騎士達は逆らうことができず、せめてもの抵抗か。本国へ目的地変更の伝令を出した。まだ返事は追いついていない。あと少しでロイスナー公国の公王邸に着くのだから、と我が儘を振り翳し宿を要求した。
要は風呂で汗を流したいのだ。街道沿いには貴族用の宿があり、風呂のある部屋もいくつかあった。そこを押さえて、さっさと休憩に入る。同行する騎士達は正直、ほっとしていた。これでウテシュ王国からの返事が追い付くかもしれない。
羊肉を焼いた素朴な料理は、双子のお気に召したらしい。お代わりして満足するまで食べた。その後、入浴も終えた彼らが眠りに就く頃……街道を騎士の一団が静かに抜けていく。窓に肘をついて眺める双子の兄ネロが「ゼークトの国旗だ」と呟いた。
他国の領地では、武装した一団は国旗を掲げる義務がある。もちろん、ウテシュの騎士達も同様に旗を掲げていた。十数人の騎士は、休憩する様子がない。そのまま街を抜けて走り抜けた。
「あれってさ……」
「間違いないと思う」
ネロとミロは顔を見合わせ、にやりと笑った。どうやらゼークト国王は娘カタリーナ王女を連れ戻し、お見合いを決行する気のようだ。
「俺らが搔っ攫ったら?」
「父上か兄上に殺されるぞ」
面白そうだけどやめておけ。悪戯好きな弟ミロを窘めるも、ネロの口元は笑みが浮かんでいた。騒動の種とは、勝手に芽吹いて成長するものらしい。




