67.あいにく女性の気持ちはわかりませんが
休憩地点で聞き出した話に、アウグストは額を押さえて呻いた。隣のヴィリは、呆れを隠すように遠くを見ている。
「えっと……家出?」
「抗議ですわ。望まぬ縁談を持ち込まれた女性の気持ちがわかります?」
まったくわからない。そう答えたいアウグストだが、さすがに危険だと判断した。いろいろ考えの足りない男だが、危機察知能力は高い。本能なのか、さりげなく危険を避けてきた。小さな問題はそのままだが、当人は「それは踏み潰すので問題なし」と考えている。
「……わからないでしょう」
さも、上司であるアウグストは察しないと答えるヴィリだが、自分の本音でもあった。男性にそんな話をされても、女性の気持ちはわからない。ついでに望まぬ縁談は、まだ決定ではない様子。そもそも、政略結婚は王侯貴族の義務なのでは?
婚約打診段階で逃げるのは失礼だろう。相手にも、親にも、養ってくれた国民に対しても。ヴィリの視線に含まれた本音を察したのか、カタリーナは目を逸らした。お茶のカップを両手で包むように持ち、唇を尖らせて不満を表明する。
王女様は夢見るお年頃のようだ。気づかれないよう小さな溜め息を、ヴィリは吐き出した。その隣で、全力で溜め息をついたのはアウグストだ。ぐしゃりと髪を掻き乱し、やや大きな声で言い放った。
「政略は王侯貴族の常だろ。俺だって知ってるぞ。つうか、家出なら親は知らねえんだろ? 今頃、必死で探してるぞ」
「……別にいいわよ」
「そう思うなら、二度と国には戻れなくても文句ねえよな? 途中で盗賊に襲われたことにして、俺が始末したっておかしくないんだ」
驚いた顔をするカタリーナに、ヴィリが説明を始めた。アウグストでさえ気づいた危険に、彼女はまだ思い至っていない。
「家出と仰ったのですが、一歩間違えるとロイスナー公国が誘拐したようにも見えます。世間知らずの姫君を誘い出し、騎士団が連れ去った。そんな理由で戦を仕掛けられる可能性もある、重大事件ですよ」
他にも危険はあるが、今はこれでいい。ヴィリはそう考えた。もし来る途中で盗賊に襲われていたら? 王家の血を引く姫君が、盗賊の子を身籠ったとしたら? 殺されていても、その場所が国境のどちら側かで責任問題が発生する。
嫁ぐため、政を知らないお姫様はとんでもない事件を引き起こした。そうなると……我らが姫君のように学んでいるほうがマシか? あれほど詰め込む必要はなかったと思うけれど。
ヴィリは表向きの理由だけを口にして、青ざめたカタリーナの返答を待った。




