64.騒がしい騎士団の帰還
馬に乗って颯爽と駆け抜ける。騎士団長の肩書を与えられてから、面倒ごとばかり増えた。会議に書類処理、王族の警護やパレードの随行……。どれも望んだ仕事ではない。守るなら、王族より兄達だ。以前からそう思ってきたし、今はさらに強く思う。
『前回』、守れなくて死なせてしまった。そのことをアウグストは悔やんでも悔やみきれない。なぜ油断したのか。部下が徐々に入れ替わり、使えない貴族の子弟が増えた頃から……用心するべきだった。気づけば取り返しがつかないところまで来ており、後ろから部下に斬りかかられた。
咄嗟に避けたものの、手傷を負う。そこから騎士団から逃亡する日が続き、最後には自分から投降した。負けを認めたからではなく、幼子を盾にした男に武器を捨てるよう言われたからだ。罪のない子供の命を引き換えにして生き残ろうと思わなかった。
武器も抵抗の意思もない幼子を盾にした時点で、あの男は騎士ではない。にやにやと笑いながら、拘束したアウグストの手足の腱を断った。この騒動で、こちらの味方をした副官のヴィリが殉職。おそらく卑怯な手で背後から襲われたのだろう。アウグストはそう考えた。ヴィリは地位に相応しい実力者だからだ。
ニクラウスによる悍ましい処刑が行われ、次は自分の番だと……正直、アウグストはほっとした。生き残ることの恐怖のほうが強かったのだ。だが、女神はやり直しを選択し宣言した。あの時に、二度と油断はしないと決めた。
ロイスナー家の兄の家族を守ることが、生きる目的と定めたのだ。アウグストの馬は、乗り手の感情を宿したように走る。軽やかな足取りで、元気に途中の領地を駆け抜けた。後ろに従う部下達も、疲れを見せずについてくる。
「なあ、帰ったら何をする?」
アウグストの問いに、ヴィリは肩を竦めた。
「そうですね、母親に長い不在の詫びを」
「そこは嘘でも、恋人に会いに行く一択でしょう!」
鼻先を揃えて茶々を入れる部下に、ヴィリはさらりと言い返した。
「会うたびに代わる女性は、恋人とは呼ばないのですよ。それに、母親は一人だけですから」
恋人のいない部下を揶揄ったヴィリは笑った。アウグストが重ねて大笑いし、馬の速度を緩める。
「俺は妻の墓参りだ。それからバカ息子二人の鍛錬だな」
「息子さん達地獄じゃないっすか」
別の部下がげらげら笑い、その明るさは騎士団全体に広がった。誰もが生まれ故郷であるロイスナー領に戻れることに浮かれている。もうすぐ最後の村を通過し、領地に入るところで……思わぬ客人と遭遇することになるとも知らずに。




