63.ともに老いていく幸せを願ったのに
最後まで聞いた感想は、ふざけるな! だった。エッカルトにとって、ミヒャエラは可愛い娘だ。幸せを願って嫁がせ、可愛い孫を二人も授かった。絵に描いたように満たされた家族を、全員? 冤罪で首を落とした? あり得ないだろう。
かみ砕いて何とか呑み込もうとする理性を、理解したくない感情が殴る。やり直しの理屈も意義も、わからなくていい。アードラー王国など滅してやる! ぐっと拳を握ったエッカルトの手に、クラーラの温かな手が重なった。
若い頃に手を繋ぎ、ずっと支えられてきた。この手を離そうと思ったことはなく、一緒に年老いて皺が増えるのも幸福だった。娘と息子を生み育てたクラーラと同じように、娘ミヒャエラがヨーゼフと年老いていくと信じて……いたのだ。
疑う余地はないだろう。公爵として財産も地位もある。突然の事故や病はどうしようもないが、エッカルトには「処刑」の単語が重くのしかかった。あと数年で……この家族が失われる? 想像だけでぞっとした。
エッカルト同様、クラーラも衝撃を隠せない。可愛い孫娘ガブリエルは、ゼークト王国の王子と婚約させたかった。その前に、ロイスナー公爵家の財力を欲しがるグスタフ王に目を付けられ、王太子の婚約者に据えられたのだ。我慢して引いたのは、相手が王太子だったから。
唯一の王子であり、王太子の婚約者ならば次の王妃が確定する。年の近い第三王子と結婚するより、地位も高く娘ミヒャエラの近くで……とそう思った。考えた末に手を引いたのに。
ヨーゼフは凄惨な処刑について、詳しく語らなかった。処刑の順番が一番早かったこともある。次に妻ミヒャエラが殺されただろうと推測できるが、彼女から聞くまで確証はなかったのだ。処刑台の上、妻子を視線に捉えようとしたところで、記憶は途切れた。
あれが首の落とされた瞬間だろう。その後、突然の光と女神の声を聞いた。そこからやり直しの輪に組み込まれ、失ったと思ったすべてが戻る。
「確認したいことがあります」
「なんだ?」
エッカルトはクラーラと手を繋いだまま、顔だけを向けて尋ねた。緊張しながら、言葉を選ぶ。
「このやり直しは、時間が戻っています。『前回』から四年、その時間の意味はわかりませんが……他国ではどう認識されているか」
小説のページを遡るように、違和感を覚えたのか。それともリボンを切って繋いだように、流してしまえたのか。
「……我々はその時間のループに、気づかなかった。何もおかしいと思わず、通常の日常だ」
「私も同じね。ガブリエルやラファエルの年齢も、記憶と現実が一致しているわ」
「そう、でしたか」
女神はすべてを戻した? それともこの国だけ巻き戻ったのか。どちらにしても、謎は深まるばかりだった。増えるだけで減らない謎に悩む時間はないのだ。新たな『今回』は進んでいるのだから。




