62.荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが
不利益ばかりの国を貰っても価値がない。王となり領地は広がるだろうが、管理する費用も莫大だった。疲弊したアードラー王国に、その費用を捻出する術がない。もっと早く手を打っていたら……と思わなくもないが、女神の介入を思えばギリギリだったのか。
完全に国が崩壊する前に、女神アルティナ様の叱責が入った。ヨーゼフはそう考える。だから、まず自らの領地を切り離して守った。家族の命はもちろん、領民も守らなくてはならない。領主として当然の務めだった。贅沢な生活、尊敬される立場、すべては領民の生活を豊かにする義務の上に存在するのだ。
「あなた、しばらく大人しくしていてくださいね。これ以上悪化させたら、捨てますよ」
笑顔でクラーラがぐさりと釘を刺した。捨てていくと表現したなら、ここに置いて行かれるだけだろう。だが捨てると言い切ったのだから、どこかへ放り出されでもしたら堪らない。こくこくと素直に頷くエッカルトに、公爵家当主の威厳はなかった。
「おじい様……叱られたの?」
「そうよ、いけないことばかりするの」
きょとんとした顔のガブリエルをどう遠ざけたものか。ヨーゼフは頭を悩ませていた。義父は『前回』の話を知りたいと口にした。だが、何度も娘に聞かせたい話ではない。迷うヨーゼフと組んだ腕を解き、ミヒャエラが中腰で視線を低くした。
「ねえ、ガブリエル。おじい様は動けないみたい。ラファエルを探して、一緒にお菓子を作りましょう。差し入れにぴったりでしょう?」
ガブリエルの目線に合わせ「おじい様」と呼んだミヒャエラだが、年寄り扱いだとエッカルトは肩を落とした。
「作りたいわ!」
頷く祖母の手を離し、ガブリエルは母と手を繋ぎ直した。鼻歌を歌いながら、繋いだ手を揺らして歩き出す。意味ありげに視線を合わせた妻へ、ヨーゼフは感謝して軽く頭を下げた。手を振るガブリエルに、皆で手を振り返す。
扉を閉めた二人の足音が聞こえなくなる頃、ようやくヨーゼフは詰めていた息を吐き出した。
「なんだ、リルには秘密か」
驚いた顔をするエッカルトは、ベッドの上で枕を抱いていた。仰向けは痛いし、横を向いても身じろぎで痛みが走る。妥協案として、一番痛みの軽いうつ伏せなのだ。体を安定させるために枕を二つ、体の下に押し込んでいた。
「いえ、あの子には先日話しました。まず、この話は荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、実際にあった事実であることを前置きします…………私達家族は一度死にました」
衝撃的な切り出しになった話に、起き上がろうとしたエッカルトが「うぐっ」と呻く。駆け寄ったクラーラに背中を撫でられ、顔を顰めて義息子を睨んだ。




