54.トカゲの尻尾を捕獲したので帰る
「……それで、団長が部下と突撃した結果が……コレ?」
ジーモンが呆れ顔で指摘する。顔を引きつらせ、うっかり肯定も出来ずに目を逸らす副官ヴィリ。捕まえた獲物を担いだ騎士達が通り過ぎた。簀巻きにされた獲物はクンケル伯爵家の次男と……なぜか嫡男も一緒だ。呼び止められ、腕を組んで不満を表明するアウグストがいた。
「きちんと裏取りが必要だと言ったでしょう!」
「ここから先の調査は俺の仕事ではない。ゆえに苦情は筋違いだ」
仲間内では気が抜けて阿呆なアウグストだが、これでも騎士団長を任されるだけの人望も能力もある。その認められた能力の大半が、剣技と腕力だとしても。脳みそがすべて筋肉と揶揄される残念な側面すら、アウグストの魅力だった。
だからこそ、ヴィリは幼馴染みでもあるアウグストを支えようと決めたのだ。過去の自分の決断を、これほど悔やむ日が来るとは思わなかったが。
「俺は王都に残るぞ。つうか、外へ出ても戻されそうだしなぁ」
ぼりぼりと頭を掻いて、ジーモンは苦笑いした。騎士団に所属して退職したが、親族は王都周辺にいる。戻されたバルバラの娼婦達を見れば、自分が同じ目に遭うのは想像できた。王都で生まれ育ち、王都で死ぬ。本来はそれが正しい姿なのだ。
「……頑張れよ、ジーモン隊長」
肩を叩いて激励するアウグストの、奇妙な単語にジーモンが首を横に振る。全力で否定した。肩に置かれた手も振り払う。
「冗談やめてくれ、この状況で隊長とか、罰ゲームだろ」
「そうか。それ以上を望むとは……肝が据わっている。では騎士団長に指名しよう」
「……腰が痛くなった。ちょっと引退してくる」
腰を押さえて後ずさる。騎士団長は指名制だった。前の騎士団長が引退する際、自分の後釜を部下の中から選ぶ。ロイスナー公爵家の騎士が王城を守る前からの慣習だが……拒否した事例は少ない。その数少ない状況に、ヴィリが噴き出した。
肩を震わせていたが、我慢できずに盛大に笑う。引退も何も、すでにジーモンは騎士ではない。腰を痛めたのもあるが、正式に除隊届が受理されていた。そのことを忘れて慌てる姿に、事務を担当するヴィリは笑いを堪え切れなかった。
「もう、除隊……済み、ですっ」
苦しい息の合間を縫って、何とか伝える。新しく結成されるアードラー王国の騎士団は、貴族の私兵がほとんどだ。騎士は数が少ないうえ、貴族も手放さないだろう。兵士を鍛えて騎士に格上げさせるのは、重労働だった。
さきほどはアウグストに渋い顔をしたヴィリだが、状況を把握して決断を下す。面倒な指導役を任される前に、さっさと逃げ出さないと……逃げ損ねる。
「さあ、帰りますよ! 罪人を牢に放り込んで、報告書を上げてください」
ヴィリの「帰る」宣言に、騎士達がわっと歓声を上げた。




