53.俺に尻尾はないぞ?
アードラー王国では、バルバラからの通報が届いていた。ジーモンがクンケル伯爵家を探り始める。娼館の女達から得た情報は、過去にもいくつかの事件を解決した実績がある。信頼性の高い情報として、騎士団も動いた。
「ところで、この事件が終わったら帰れるんですよね?」
部下からの確認に、バーレ伯爵アウグストは大きく頷いた。
「ああ、大丈夫だ。任された仕事はこれで終わりだ……よな? ヴィリ」
「きちんと把握していてくださいよ。これが終われば帰れます」
請け合ったくせに不安そうに確認する上官へ呆れながら、副官のアンテス子爵が返答する。この仕事が最後だと聞いて、部下は沸き立った。帰れるぞと叫びながら走り回る騎士も出た。
「荷造りは終わっていますし、あとは帰るための号令だけです。最後の仕事をきちっと終わらせて、堂々と王都を出ましょう」
それならば女神も邪魔をしないだろう。騎士達は気合いを入れて飛び出していった。ジーモンが持ち込んだ情報によれば、クンケル伯爵家が怪しい。だが嫡男ではなく、次男が関わっていると聞いた。金遣いが荒く、噂になった部分に懸念がある。
「もしかしたら、切り捨てる尻尾ではありませんか?」
「……俺に尻尾はないぞ?」
真面目な顔で返す上官に、ヴィリは額を押さえて呻いた。なんでこの人が団長で、自分より爵位も上の伯爵なのだろう。心の底から恨めしく思う。確かに強くて人望もあるが、阿呆すぎる。良いほうに表現すれば「素直」や「真っすぐ」なのだが。
「ほかに黒幕がいるのではないか、という話です!」
ややキレ気味に吐き捨てれば、納得した様子でアウグストは何度も首を縦に振る。一歩後ろに下がったのはどういう心境か。アウグストを睨みながら、腕を組む。
「す、すまん……黒幕はわからんが、そこは俺達の仕事ではない……だろ?」
トカゲの尻尾だろうが、関わった者を捕まえればもう関係ないよな? 最終確認する団長へ、副官は少しばかり考えて同意した。
「そう、ですね。我々には関係ありません」
「よし、クンケルを捕まえて吐かせよう!」
頭の悪い方法だが、確実ではある。尻尾を切って逃げる本体……黒幕のことを考えなければ、これもありか。ヴィリは考えるのをやめた。これ以上尽くしても、騎士団にプラスにならない。王国のことは国王や後釜の騎士に任せたらいい。
これまでの慰労金も出ないのだから、さっさと領地へ帰りたかった。
「早く来い! クンケル伯爵邸に突撃するぞ」
「ちょっ! いきなりは無理ですよ。調査をしてから……聞いてますか?!」
突撃して終わらせようとする乱暴な上官を追って、ヴィリは慌てて走り出した。




