52.おじい様を追ってきた手紙
祖父母がゼークト王国から訪ねてきて、すぐに手紙が追いかけてきた。受け取ったアードルフが仕分けをして、運んでいく。その後ろをついて歩くガブリエルは、手紙と一緒にヨーゼフの執務室へ入った。
「おや、可愛いお嬢さんが来たね。休憩にするとしようか」
執務の手を止めた父と並んで座り、ちょっと顎を反らした澄まし顔で茶菓子に目を向ける。私の好きなジャムのクッキーだわ。ガブリエルが同行した時点で指示したアードルフにより、侍女が用意したお茶菓子がきらきらと光を弾く。
パンに塗るジャムと違い、焼いて水分が飛んだジャムは硬くなる。その食感が好きだった。色も透き通って綺麗で、まるで宝石みたいだ。ガブリエルは侍女が下がるとすぐ、手を伸ばして一枚手元に引き寄せた。外のクッキーは緩やかなカーブを描く縁取りで、中央のジャムが宝石……ブローチを思い起こさせる。
「綺麗ね」
「お姫様にぴったりだ。今日は何をしていたのかな?」
「おばあ様とお散歩して、おじい様のお見舞いをしたわ」
さくっと一口齧り、頬を緩めたガブリエルが説明する。ラファエルも一緒だったと付け足し、二枚目をどれにしようか迷った。先ほど取った一枚は赤、黄色と緑がある。黒いのはチョコレートだろう。四種類あるが、黄色と緑の間で迷った。
「ガブリエル、提案なんだが……これを半分食べてくれないか?」
手元に取った黄色いジャムのクッキーを、ヨーゼフは器用に半分に割った。左手側がやや小さい。右手のクッキーを差し出す。
「仕方ないですわね。ではこちらを半分差し上げますわ」
大人ぶった口調で、緑のジャムが輝くクッキーを摘まんだ。ガブリエルの小さな手では割りづらいようで、ヨーゼフが途中で引き継いで半分にする。今度はほぼ同じ大きさで、ガブリエルは嬉しそうに受け取った。
壁際に控えるアードルフの眼差しが優しい。心地よい空間で、ヨーゼフは届いた手紙の送り主の名前に目を見開いた。手にした黄色いクッキーをぱくりと一口で食べ、手を拭いて手紙を開封する。
「これ、おじい様の紋章です」
封筒に押印された紋章に気づき、ガブリエルはにっこりと笑った。
「ああ、そうだね。良く学んでいる」
ガブリエルを褒めたヨーゼフは、便箋の文字をさらりと目で追い……肩を竦めて手紙を畳んだ。娘の手から返してもらった封筒に入れてしまう。
「どなた?」
王太子妃教育で身に付いた言葉遣いに、ヨーゼフは目を細めた。気に入らないが、公女となった今は役に立つ。直すのは違うが……まだ子供らしく「誰?」と聞いてもいいのに。複雑な思いを呑み込み、笑顔で差出人を口にした。
「モーリッツ殿だ。覚えているかな?」
「シェンデルのおじ様だわ!」
大当たりだと褒められ、ガブリエルは手元のクッキーを口に放り込む。ぱんぱんになった頬を両手で包み、お茶で流した。ちょっと、お行儀悪かったかしら? そう思ったのに、咎めない父はなぜか笑顔で頷いた。




