51.懐かしい再会と予想外の激痛
到着した父母を出迎えたミヒャエラは、開口一番「お祝いを持ってこなかったの、あとで送るわね」と笑う母に驚いた。もう建国の話が伝わっていたの? そう尋ねた娘に母は微笑んで「ええ、あなた達をいつも心配して気にかけていますからね」と抱きしめた。
感動する娘と抱き合う妻を見ながら、エッカルトはそわそわと順番を待つ。ここで邪魔をすれば、しばらくクラーラが口を利いてくれないだろう。最愛の妻に嫌われるのも嫌だが、気が利かないと娘に思われるのもつらい。その後ろで、苦笑する義息子に気づいて目配せした。
互いに頷いて「つらいですね」「そうだな」と言葉にならない本音を交わす。これがあるから、娘の夫に嫉妬せずに済むのだ。ヨーゼフがいかに娘ミヒャエラを愛しているか、エッカルト達はよく理解していた。
「おじい様!」
走って来る孫娘ガブリエルに気づき、エッカルトの表情が明るくなる。妻には悪いが、先に孫を抱きしめよう。手を伸ばした祖父の手前で、ガブリエルは祖母に捕まった。
「あらあら、大きくなったのね……ガブリエル。とても綺麗になったわ」
「おばあ様はお変わりなく」
きちんと礼をしてから抱擁を交わす孫娘と妻を見つめ、エッカルトは固まった。また取られた。
「お父様、私に挨拶をしてくださいませ」
娘にせかされ、慌てて我に返る。手を伸ばして娘の手に触れ、甲に唇を寄せた。それから身を起こして、涙ぐんでいるミヒャエラを抱き寄せる。以前より細くなった気がした。
「痩せてしまったのではないか?」
「いいえ、変わっておりませんわ。お父様もお元気そうで安心しました」
ここでようやくヨーゼフが加わる。
「お義父上もお義母上も、よくおいで下さいました。いろいろお話したいこともあります。長く滞在可能でしょうか?」
予定を聞かれ、急いで帰る用事はないと言い切る。嘘も間違いもない、エッカルトはそう考えていた。息子にすべて譲ってきた、と。実際は全く違うが、本当に引退してもいいと考えるエッカルトは「滞在は長い」と笑った。
最後に遅れて、ラファエルが合流する。全力で走っているが、後ろで付き添うカールの速足と大差なかった。抱き着いて「おじい様、お久しぶりです。会いたかったです」と笑うラファエルの頭を撫でたエッカルトは、やらかした。
抱き上げようとして、腰を痛めたのだ。ぐきっと音が聞こえ、世界が暗くなった。孫にいいところを見せたかった。当人はそう語るが、周囲から見れば固まって動かなくなっただけ。
ヨーゼフが恐る恐る声を掛ければ、痛くて動けないと返ってきた。体力のあるカールが肩を貸して客間へ移動し、苦笑いするクラーラが後を追う。滞在は本当に長くなりそうだった。




