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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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49.ゼークト王国からの客

 ガブリエルは大きな変化を受け止めきれずにいた。まだ消化できていない。王太子に嫁いで将来は王妃になる。その未来は崩れ去った。ある日突然「領地へ帰るぞ」と宣言した父ヨーゼフに従い、母ミヒャエラや弟ラファエルと戻ってきただけ。


 つい先日、ようやく『前回』と呼ばれる女神様のお慈悲の話を聞いた。正直、驚きしかない。それでも父母が嘘をついたとは思わなかった。皆が知っているかどうかではなく、自分が愛されていると知っていたからだ。


 私を守ろうとしているのは、感じ取れた。その延長だろうか。ロイスナー公爵領は、独立してロイスナー公国となる。つまり、ガブリエルは公爵令嬢から公女殿下になったのだ。この辺の動きが忙しすぎて、まだ理解が追い付かなかった。


 独立の必要はあったのかしら? 首を傾げるものの、窓から眺める庭の景色と暖かな日差しに瞼が重くなる。眠気が押し寄せ、我慢できずに欠伸をした。もちろん、そっと手で隠しながら……。こくりと首が動き、慌てて姿勢を正そうとするも無理で。ずるずると崩れてソファーに寝転がる。


 ダメよ、いまお昼寝したら……起きられない。夜も眠れなくなるかも。心配がよぎるが、我慢できなかった。もう一度小さく欠伸をして、完全に目を閉じた。ガラス越しの日差しは、眠ってしまえと誘いかける。ぴくりと指が動いたけれど、それが最後の抵抗だった。


 眠った娘に気づき、ミヒャエラが頬を緩める。すぐに毛布を掛けたら起こしてしまう。もう少し寝入ってから、と編み物を続けた。今編んでいるのは、冬用の上着だ。毎年一枚ずつ編む上着はサイズが変わり、成長が実感できる。


 最後に白いレースの襟も編んで被せよう。きっとガブリエルに似合うわ。ミヒャエラはそう考えながら、柔らかな緑の上着を仕上げていく。これは息子ラファエルの分だった。ガブリエルは木苺の色がいいと強請り、夫は無難な紺色にするらしい。最後に編む自分の分は何色にしようか。悩むのが毎年の楽しみでもあった。


 キリのいいところで手を止め、ガブリエルに毛布を掛けた。ふと……顔を上げたミヒャエラは動きを止める。この部屋は屋敷の正面にある庭に向いており、居間として使用していた。正面玄関と同じ向きであるため、門からのアプローチもすべて視界に入る。


 一台の馬車がゆったりと進む姿に、ミヒャエラの表情が和らぐ。アードラー王国では珍しい六頭立ての馬車は、真っ白な塗装が施されていた。赤と金のラインが何本も飾られ、縁起物のランタンも揺れる。描かれた紋章は……翼ある獅子。


「お父様達がもう……?」


 到着が早い。明日以降の予定だと思っていたミヒャエラは、子供達にまだ知らせていなかった。門で護衛と分かれた馬車のみ、静かに玄関に横付けされる。出迎えのために立ち上がり、一瞬だけ娘を振り返った。起こすのは可哀想ね、眠ったばかりだから。


 ミヒャエラはスカートを摘まみ、急いで玄関へ向かった。途中で執事セシリオに、夫を呼ぶよう頼みながら。

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― 新着の感想 ―
さてさてやり直しはどの程度他国に影響をだしてるか
馬車が来ましたね。馬車の馬の世話をするべく小人達が躍りながら出てきました。やり直しの世界で歴史が動いた瞬間です。女神様、神殿の像にチョビヒゲの落書き書いてすみませんでした。
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