45.袂を分かつ建国と借り物の土台
ロイスナー公国建国の知らせは、思ったより早く王都へ届いた。
「そうか……当然であろうな」
諦めた口調で頷く国王グスタフに、宰相ヤンも同意する。
「私が同じ立場でも、建国して袂を分かつでしょう」
建国の通知は、大臣達の手に次々と渡され目を通された。誰もが無言で読み、反論を口にする者はいない。もし冤罪で家族が殺されたら、やり直す場面で敵と手を取り合うだろうか。己の首を落とした者らと、笑って未来を語れるか。
答えは出ていた。その答えが、国内貴族の独立という形で突き付けられただけのこと。
「周辺国への根回しも終わっていると思ったほうがよさそうです」
外務大臣を務めるブロイ伯爵が溜め息を吐いた。もしかしたら、周辺国から連絡が入っていたかもしれない。状況を確認するくらいはするだろう。だが混沌とした王宮内で、情報伝達能力は落ちていた。
暗殺を警戒し、国王から大臣や文官まで固まって過ごす。侍従や侍女は逃げ出し、半分も残っていなかった。身の回りのことで手一杯になり、外から届いた手紙や書類は後回しにされる。悪循環だった。
「暗殺への警戒は必要だが、人を採用して立て直す」
外部から人を雇えば危険だ、その意見も理解できる。だが、王宮に残った者だけで日常が回らないのも事実だった。そもそも王侯貴族なら、身の危険は付きまとう。警戒しすぎて身動きが出来なくなるなど、本末転倒だった。
「……承知いたしました」
ヤンが大臣達に指示を出し、各部署で必要な人数の算出に入る。
「騎士団長以下、騎士団からの離脱要請も考えねばなりません」
「もちろんだ。借りただけだからな」
答えながら、グスタフは己の置かれた足元の不安定さを認識した。親の代から、騎士団はロイスナー公爵家に借りている。騎士団の騎士達はもちろん、軍馬や武器に至るまで。鎧すら彼らの自前なのだ。王城が雇ったのは、衛兵や城門を守る兵士のみ。
ここまで恵まれていることを、何も感じずに過ごしてきた。『前回』毒を盛られたがゆえ、グスタフが倒れて国が傾いた。愚かなニクラウスに託した未来が闇だったと嘆くのは簡単だが……そもそも土台が借り物なのだ。傾いて当然だった。そこに思い至らず、手元の小細工でやり過ごせるはずもない。
「ロイスナー公爵……いや、公王へ親書を出す。騎士団にはもう少しだけ滞在してもらい、その間に騎士団を構築せねば」
王都に戻された貴族も多い。彼らの持つ私兵を出させるしかあるまい。新たに雇う者達を騎士に育てるには、年単位の時間が必要だった。先は長いが、まだ十分に若く動ける。毒も盛られていないのだから、先祖の残したアードラー帝国を残せるよう踏ん張るしかない。
国王グスタフは大きく息を吐き、親書の作成に取り掛かった。




